ベンチャー界隈No.1との呼び声の高いフォーサイト総合法律事務所・大村代表パートナー弁護士をお招きして、ベンチャー企業経営者にとってのM&Aについてたっぷりお話しいただきました。
IPOを目指していた、またはIPOを目指しているものの、M&A(バイアウト)についても理解を深めたい経営者必見の情報が満載。普通はなかなか教えてもらえないM&Aの実情についても大公開してくださいます。
デュー・ディリジェンスは必須
バイサイドはM&Aの際、買収した後のリスクを重視しますが、会社は生き物ですから将来どうなるかはわかりません。そこで行われるのが財務や法務等のデュー・ディリジェンス(買収監査手続き)です。
ただし、デュー・ディリジェンスも限られた期間、コストの中で行うので、すべてのリスクを発見することはできないのが実情です。なるべくたくさんの内容を盛り込みたいというのがバイサイドのニーズですが、セルサイドとしてはバイサイドとなるべく無駄な約束はしたくなく、株主間の調整をしたうえで、M&Aの手続きをバイサイドと行っていくのがセオリーになります。
また、上場を目指しているベンチャー企業か、ぽっと出のベンチャー企業かによっても、バイアウトのポイントは変わります。同じベンチャーでも、IPOの一歩前の会社などでは、会社の規程や労務管理をちゃんと整備しています。しかし、ぽっと出のベンチャー企業の多くは、内部的なことがちゃんとできていません。事業自体も大丈夫なのか不安が残ることもあります。そういう場合はデュー・ディリジェンスを十分にしなければいけません。
デュー・ディリジェンスをしてみると、その法人に簿外債務があるとか、偶発債務がある等のリスクが明らかになることがあります。例えば、ある会社ともめていることが判明することがあります。ただし、リスクがわかればヘッジする方法を探すことができるので、問題にはならない可能性があります。
デューデリジェンスを十分にせず、情報がまっさらな状態で会社を買収するのが危険なんです。ひどい場合には、(買収後に)「取引先から5億円の損害賠償請求が来ました」ということも起こりえます。そういった事態を防ぐためにもデュー・ディリジェンスは欠かせません。
SPAだけでなく、LOIもうまく使う
SPA(株式譲渡契約書)もそうですが、デュー・ディリジェンスや最終契約の前に通常はLOI(基本合意書)を作ります。LOIでは、場合によっては価格のレンジのバッファをもって、例えば「10億円~15億円で買収します」といった風に定めます。秘密保持契約を交わして、基本合意をして、そこからにデュー・ディリジェンスに入る流れです。
我々は基本合意のところから入ることもありますし、デュー・ディリジェンスの段階から入ることもあります。ただ、コストはかかりますが、できれば基本合意からやったほうが間違いはないです。
バイサイドが上場企業の場合、最終合意をして開示するのが通常ですが、基本合意に法的な拘束のある部分が多いと基本合意だけで開示する必要がある場合もあります。あと、M&Aの準備に着手しているということはインサイダー情報になりえますから、なるべくインサイダーフリーにしたいという上場会社だと、基本合意段階でも任意に開示したりしますね 。

開示のタイミングを工夫してインサイダーフリーに
実は、基本合意も場合によって開示の必要性が異なり、その基本合意における法的拘束力の有無や取引実行の蓋然性等に応じて開示の要否が異なったり、また、例えば基本合意書の締結が準備行為に過ぎない場合ならしなくていい、というような細かい実務の運用もあって、上場会社は開示をいつするかがとても大事です。
なぜかというと、M&Aに携わる役員が自社の株を売りたいタイミングでM&Aに着手してしまうと、インサイダー期間に入ってしまって株が売れなくなるからです。なので、開示をしてインサイダーフリーにして株を売れるようにしておくといった具合です。
マザーズ上場会社が東証一部に移るときなどには、オーナーの株を証券会社を通じて売却して、株主を増やさないといけないことがあります。しかし、それもインサイダーの適用になってしまう。年4回の決算開示のあとの1、2週間はインサイダーフリーと一般に言われますが、これに加えてM&Aを一定期間で決議すると、これもインサイダーになってしまいます。そこで、インサイダーフリーにするため、「覚書レベルで提携しました、開示します」という形をとると、インサイダーフリーになるんです。そういう方法を採用する会社もあります。
例えば決算開示を2月12日に行う場合は、M&Aを知っているとインサイダーフリーにはならないので、決算開示のタイミングで最終合意を締結する形にするんです。
我々のクライアントの多くは上場会社または上場を準備している会社なので、我々はM&Aの実務だけではなく、こういう開示実務をわかっている必要があるんです。「いつの期間がインサイダーになるのか」といった質問は実際よくあります。
ただし、逆効果になることもあります。例えば、覚書を締結して開示した後にデュー・ディリジェンスをしたら、どうしようもない瑕疵が見つかって、大口取引先との契約が切られてしまう可能性が高かった事案がありました。買収したとたんに大口顧客を失ってはこの会社の事業は立ち行かないということで、このM&Aは断念しました。ただしこの場合は、基本合意を結びましたと開示しているので、M&Aをやめました、という開示もしないといけないんです。
M&Aは良かれ悪しかれ、市場に対して影響を与えます。あの会社を買収するのか、という期待で株価が上がる場合もあれば、そんなことやってる場合か、と下がる場合もあるし、あんな会社を買収するの?と下がることもある。どちらかというと、株価は下がることが多いです。やっぱり、ちゃんと利益が出る会社を、それなりの金額で買収しないといけないですね。
次回更新は7月3(火)、うまくいく買収の条件について、詳しく解説いただきます。
監修者情報
大村 健
フォーサイト総合法律事務所‐代表パートナー弁護士