M&Aアドバイザー選びの答えは、見る順番にあります。
最初に見るべきなのは担当してくれる"人"。その次に仲介かFAかの”仕組み”を選び、最後に”契約条件”で自分を守る。この3ステップです。
ところがアドバイザーを探し始めた経営者が最初に考えがちなのが、仕組みです。しかし阿部俊介(株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長)と小林正憲(同社執行役員 兼 M&A部部長)は、まずは”人”を見ることが重要だと言います。
なぜ"人"が先なのか。人の何を見るのか。そして契約で何を確認するのかを、二人の対話から紐解きます。
Profile
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小林正憲
株式会社Wellness X Asia 執行役員 兼 M&A部部長 兼 シニアアドバイザー
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阿部俊介
株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長
「仲介かFAか」の前に、結局は「人」
アドバイザーを入れるかどうかの入口には、手数料の論点があります。売却額が小さいと最低手数料の設定で手数料の割合が大きくなるため、自分で交渉しつつセカンドオピニオン的なサポートだけ受ける選択肢もある——手数料倒れしないようにだけはしましょう、と阿部が常々伝えている部分です。その論点を一旦置いた先で必ず出てくるのが、「仲介がいいか、FA(売り手か買い手の一方につく専属のアドバイザー。両者の間に立つ仲介と対になる形態)がいいか」という論点です。二人がまず口を揃えるのは、その前に見るべきは”人”でした。
結局人だよね、とよく言われますね。どの会社にお願いするかというより、アドバイザーの人格、どういう人なのかというのが重要だという話はよく耳にします。
そうなんです。手数料倒れするかしないかは一旦置いておいて、その上で仲介がいいか、FAがいいかという論点が出てくるわけですが、これも最終的にはそのアドバイザーとの”馬の合い方”のようなものが重要になってくると思っています。
なぜ「人」が先か。本番はDD以降の最終局面
では、なぜ仕組みより先に「人」が重要になるのでしょうか。阿部は、M&Aの本番は意向表明を受け取り、独占交渉権を付与し、デューデリジェンス(DD、買い手が対象企業の財務・法務等を精査する手続き)が始まってからの最終局面にあると語ります。この段階で交渉は一気に増え、売り手と買い手との間に立つ以上、コミュニケーションが活発に行われます。
それがなぜなのかを最近改めて思うのですが、M&Aの本番というのは、意向表明をもらって独占交渉権を付与して、DDが始まった最終局面のところですよね。そうなると、アドバイザーとのコミュニケーションが一気に増えてきます。アドバイザーは買い手との交渉の間に入る存在なので、交渉事である以上、嫌なことも言われるし、言わなければならない場面も出てきます。小林さんが直近たくさん対応されている中で、アドバイザーとしてこういう局面で大事だなと思うことはありますか。
我々がやっているのは売り手専属のアドバイザーで、その名の通り売り手さんにつくという立場です。買い手探しの結果、我々が探してきたのではなく売り手さんの知り合いが買い手になるパターンもあります。この場合、アドバイザーを入れずに交渉することも可能だとは思いますが、売り手が直接交渉するとなるとめちゃめちゃやりづらいんですよね。M&Aが具体化していくほど、グループイン(買収されて相手企業グループの傘下に入ること)した後に気まずいのは嫌だなという気持ちが働きます。そうなると、報酬や条件の交渉、つまりグループインした後の交渉がしづらくなる。ただ、言いづらいからといって流していくと、後々の問題になってしまいます。「こんなはずじゃなかった」というのが一番やってはいけないM&Aなので、グループインしたことで会社も自分も幸せだと思えるように、論点はお互いに潰しておかなければいけません。それをもし一人でやっていたとしたら、「仕方ないか」となってしまうと思うんです。
一人で自問自答すると諦めてしまうものも、我々のような第三者がいることで、「本当にそれで交渉しなくて大丈夫ですか」「グループインした後のこと本当にいい想像ができていますか」と問いかけられます。なので売り手さんの思いをちゃんと言語化して、それを買い手に伝える。ここが結構重要だなと思っています。
特に我々のような売り手専属のアドバイザーになると、どちらか一方につくことになるので、相手側のサンクコスト(すでに投じた時間や労力を惜しんで判断が鈍る心理を指す)を気にしなくていいわけです。とはいえ売り手からすると、そんなことを言ったら買い手に嫌われてしまうのではという恐怖はやっぱりありますよね。
ですが、それはそれとして、アドバイザーと売り手の間で、一旦ベストな形はこうですよねと話した上で、今の状況や過去の経緯を整理をすると、さすがにこれだと買い手側も難しいだろうから、ベストから何を削って、なるべく我々の思いに近い形にしていくのかという議論をすることが重要ですよね。
金額とリスクは等量。だから信頼関係が要る
交渉は騙し合いではない。金額とリスクは等量でなければならず、「金額はいくらでも高ければいい」という交渉はむしろ危険だといいます。
前提としてこれは騙し合いではないんですよね。阿部さんもよく言っていますが、金額とリスクは等量でなければいけません。金額が高くなればリスクも高くなりますし、求められることも増えてくる。そのバランスを把握しながら交渉していかないと、とんちんかんな話になってしまいます。アドバイザーとして、金額はいくらでも高ければいいんだという交渉はかなり危険で、買い手から「それならこうなりますよ」というリスクの話が返ってきます。金額とリスクが等量でいい形になっていることは売り手にも伝えなければいけませんし、買い手側の要求のバランスが崩れている時は、それは求めすぎではないですかとも言わなければいけません。この感覚を持ってちゃんと交渉ができるかがすごく大事ですよね。
そうですね。そこをちゃんと感覚を持って交渉するわけですが、なぜ売り手とアドバイザーの相性が必要かというと、今みたいな話を二人でずっとするからなんですよね。だからこそ、腹を割って話せるか、ある程度の信頼関係を持ちながら話を進められる相手かというのを見極めることが重要なんだと思います。
そうなんです。本当に信頼関係が大事です。元々の知り合いだから信頼できるというわけでもなくて、短時間でも信頼を得られるくらいちゃんと正直に話ができるか、自分にできることとできないことを伝えられるかというのも大事なので、誠実で正直な人がいいんでしょうね。
事業理解は「知識」より「姿勢」
阿部はもう一つの論点として、事業理解を挙げました。アドバイザーがその業界に詳しいかどうかより、重要なのは、その会社への理解の深さ。アドバイザーと売り手の関係は、行き着く先は会社の右腕、左腕と呼ばれるほどの信頼関係を築き、社長の代わりに自社を語れる存在になる必要があるといいます。
もう一つ思うのは事業理解です。業界に詳しいか詳しくないかというのは、ある程度経験を重ねている人であれば理解できるものだと思います。それよりも、その会社の、我々がよく言っているアドバイザーと売り手の関係性というのは、行き着く先では会社の中の右腕、左腕と言われるくらいの信頼関係が置けて、社長の代わりに自分の会社を語れる人になっていく必要があるじゃないですか。その場では詳しくなくても、理解しようとする姿勢や、一回一回のミーティングでの質問の深さ、耳を傾けようとする姿勢で、ある程度見えてくるものだと思います。あとは、「金額を高くできますよ」と言ってくるだけで押し切ろうとしてくるアドバイザーには気をつけてほしいですね。
本当にそうですね。専門知識を身につけているかというより、その瞬間に深く学ぶ姿勢があるかどうか。我々もそこに結構時間をかけています。ビジネスインタビューという形で、企業概要だけでなく、商流的に川上から川下まで、どんな状況でやっているのか、どんな顧客が対象なのか、どんなサービスなのかを聞き込んでいって、対象会社の社長さんよりもその会社のことを分かって語れるくらいになろう、というのが第一のコンセプトです。それができる人がアドバイザーとしてふさわしいですよね。
馬が合うかどうかや、詳しいかどうかの前に、ちゃんと理解しようとしてくれているかというところを見るべきなのかもしれませんね。突き詰めれば、その人が仲介かFAかという前に、その人が自分としっかり向き合って対話してくれる人かどうかが重要で、その先で構造上どちらに体重が乗りやすいかという議論になってくる。順番としては、先に相対してくれる人を見るということだと思います。
本当に嘘のない誠実な真面目な人で、学ぶ意欲のある人がいいですね。
見極めと契約。たくさん会い、契約で自分を守る
M&Aは大きな金額が動くため、いろいろな相手がいるのも事実です。まずはできるだけ多くのアドバイザーに会ってみることが大切だと阿部は言います。その先で重要になるのが契約です。
M&Aはやっぱり大きい金額が動くので、いろいろな人がいます。世の中にはいろいろな事件も起きてしまっているので、そこは気をつけたいところですが、まずは一番、いろいろなアドバイザーに会ってみればいいんでしょうね。
そうですね。その中で炙り出されてくる問題もあると思いますし、例え言語化できなかったとしても、なんとなくこの人良さそうだなというという感覚も大事だと思います。
逆に、なんとなく違和感があるぞ、という感覚も大事にした方がいいですよね。ちょっと人材採用に近いかもしれません。
契約期間を短くし、迷ったときに早めに切り替えられるようにしておくのも対応策の一つです。小林は、契約を安易に結ぶべきではないと強調します。
アドバイザリー契約って安易にしちゃだめですよね。最近、サロン会員様から、御社にアドバイザーはお願いできないけれど契約書を見てもらえませんかという依頼がすごく多いんです。添削することもあるのですが、契約期間が多くの場合比較的長いですし、結構な縛りを入れてきているものが目立ちます。本当に合わないんだったらお別れして違う人とやった方がいいのに、そういう契約になっていないと、一本目の契約で間違えるとなかなか取り戻せない、ということも出てきますよね。
確認すべきポイントとして、阿部はまず契約期間を挙げます。世の中では2年、3年がデフォルトの例が多いですが、M&A BANKでは半年に設定しています。
我々がいくつか見ているアドバイザリー契約のポイントがあるんですが、一つは契約の期間ですね。デフォルトで2年、3年というのが多そうな感じがしますが、我々は半年にしています。半年あればある程度結果が見えるので、自動更新にしておけば困らないですし、2年とかに縛る必然性はそんなにないよねという気がします。まずは半年にしてもらえませんかと言ってみるといいと思います。
もう一つ筆頭に挙がるのがテール条項です。契約解除後も一定期間・一定の条件のもとで元のアドバイザーに手数料を支払う義務が発生する条項を指します。
もう一個は、M&Aアドバイザー契約で気をつけなければいけないポイントの第一位かもしれないのが、「テール条項」です。契約を切った後も、元々契約したアドバイザーに手数料が支払われる権利が定義されているものですが、この発動条件がどういう条件なのかを、ふわっとさせないということですね。
テール条項は本当に気を付けたいですね。一定期間、ある条件に当てはまると手数料が発生するというものですが、ふわっとしていると、いくらでも交渉できてしまうので良くないですし、逆にきっちり書いてあっても、ちょっと交渉した方がいいんじゃないという場合も結構ありますね。
我々がベストだと思っているのは、トップ面談(売り手と買い手の経営者同士が直接顔を合わせる面談)の設定を発動条件にすることです。買い手との面談が設定されているということであれば、買い手さん側もそのアドバイザーとある程度コミュニケーションがあって面談までできているということなので、納得感があります。そうしないと、解釈のしようによってはロングリスト(買い手候補を幅広く列挙した初期リスト)を渡しただけのものが全部対象になってしまうという解釈もできてしまいます。
そういうケースも結構ありますけどね。あとは「紹介した」というふわっとした言葉にも気をつけたいですね。リストは渡しているから紹介していますよね、と言えてしまうような文言もあるので。
少なくともその2つ、契約期間とテール条項の内容ですね。細かく言えばもっとありますが。あとは経済条件はちゃんとみましょう。
最近は経済条件をしっかりと書いてありますね。一昔前は書いていないこともあったみたいですが。
契約のポイントを踏まえて契約し、走らせてみて合わなければ変える勇気も大切だと二人は口を揃えます。
契約する時はそういった契約ポイントを見て、一度プロジェクトを走らせてみて、合わないんだったら変えるという勇気も大事ですよね。
違和感があるのに続けないようにしましょうということですよね。長く付き合ってきたアドバイザーに申し訳ない、という気持ちになってしまうこともあるじゃないですか。
だからこそ、アドバイザーの側にも、M&Aを止めたいと思ったら、止めてもいいですよと言ってくれるくらいの度量があってほしいと思うんです。我々が初期費用をいただいているのも、そうしたサンクコストによりM&Aが止められないということ自体を見越して設定している、ということなんです。
サンクコストは捨てないとだめですね。あまりいいようには作用しないので。
まとめ
仲介がいいか、FAがいいか。この問いは、突き詰めれば仕組みの話にすぎません。二人が一貫して示していたのは、その前に見るべきものがあるということです。担当するアドバイザーが自社を我がことのように理解しようとしているか。交渉の修羅場でも腹を割って話せる相手か。その見極めがあって、初めて仲介かFAかという選択が意味を持ちます。
M&Aは、多くの経営者にとって人生で一度きりの大きなプロジェクトです。だからこそ伴走してくれる相手は制度や肩書きではなく、まず人で選ぶ。そのうえで仲介かFAかという仕組みを選び、最後に契約条件で自分を守る。人→仕組み→契約という3つの順番を、逆にしないこと。それがM&A BANKが、これからアドバイザーを探す経営者に伝えたいことです。