「株式譲渡」と「事業譲渡」どっちを選ぶ? 違いを分ける3つの視点 | M&A BANK
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「株式譲渡」と「事業譲渡」どっちを選ぶ? 違いを分ける3つの視点

株式譲渡と事業譲渡のどちらにするか?M&Aを検討する経営者からよく質問をいただく論点です。

これらの手法の「違い」は、①売却益の入り先と税金、②デューデリジェンス(買い手による事前の精査)の粒度、③契約の巻き直しの有無という3つの視点で整理できます。

そして「どちらを選ぶべきか」は、売却した利益を誰が受け取り、何を手放して何を残すのかという売り手の戦略で決まっていきます。

対談での二人の答えは一貫して「どちらが優れているという話ではない」というもの。

阿部俊介(株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長)と小林正憲(同社執行役員 兼 M&A部部長)の対話から、自社に合う手法を選ぶための軸を紐解きます。

Profile

  • 小林正憲

    小林正憲

    株式会社Wellness X Asia 執行役員 兼 M&A部部長 兼 シニアアドバイザー

  • 阿部俊介

    阿部俊介

    株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長

視点①:会社ごと売るか、事業だけ売るか(売却益と税金)

3つの視点の違いは、すべて「譲る対象」の違いから派生します。

小林正憲

小林正憲

まず、株式譲渡と事業譲渡の違いを、ざっと整理しますね。M&Aというと、一般的には株式譲渡を想像される方が多いと思います。会社の株式を売却して、会社そのものを旧オーナーから新オーナーに引き継ぐ形です。一方の事業譲渡は、当該事業だけを会社から切り出して、その事業だけを旧会社から新会社に移すというもの。ここに手続き的なものや税務的なものが絡んでくるので、何がどう違うのか分からないというご質問をよくいただきます。
阿部俊介

阿部俊介

株式譲渡は会社を売る、事業譲渡は事業だけを売る、という大きな違いがあるということですよね。
小林正憲

小林正憲

そうですね。
阿部俊介

阿部俊介

あとは売却した時に、売却益がどこに入ってくるかという違いが大きくあります。会社を売却する場合は、株式を持っている株主個人に売却益が入ります。一方、事業譲渡の場合は、元々その事業を持っていた会社の売上になる(事業を売却した代金を、株主個人ではなく会社が受け取るということです)。つまりキャピタルゲイン(株式の売却益)を株主として得ようと思った場合、事業譲渡ではそもそも実現できないという、シンプルな違いがあります。他に分かりやすい違いは、ありますか。
小林正憲

小林正憲

そうですね、あとは税金ですね。
阿部俊介

阿部俊介

個人に入ってくるか、法人に入ってくるかによって、かかる税金も変わるということですよね。個人の場合は今のところキャピタルゲイン課税、分離課税(他の所得と分けて課税される方式)で約20パーセントになります。注意が必要なのは、2027年から改正されるミニマムタックス税制により最大35パーセント超に上がっていくと考えられます。法人の場合は法人税になるので、30パーセント強になります。

視点②:デューデリジェンスの違い

手続き面の違いがまずはっきり表れるのが、デューデリジェンス(DD、買い手が対象企業の財務・法務等を精査する手続き)の粒度です。

阿部俊介

阿部俊介

手続き的な違いもみていきましょう。買い手側の立場から見るか、売り手側の立場から見るかで見え方が変わってくると思うのですが、よくお話しされる違いを一つひとつ挙げていければと思います。まず何が違いますか。
小林正憲

小林正憲

株式譲渡の場合は、会社の全てをデューデリジェンスで明らかにしなければいけません。過去に起きた係争関係など、会社の歴史に基づいて何が起きていたのかを全て明らかにした上で、それらのリスクを引き受けた上でも買収するかどうかを決めていく形になります。税務・労務・法務、加えてビジネスまで、かなり詳細に見ていく必要があります。ただし会社の決算書など、すでに存在している書類をもとに調べていく形になるので、一つずつ紐解けば時間はかかっても手続き自体は進んでいきます。一方の事業譲渡は、該当事業を切り出してその価値を決めて売却する形になるので、決算書から当該事業のPL(損益計算書)を作らないといけないんですよね。
阿部俊介

阿部俊介

そうですね。
小林正憲

小林正憲

ここには信憑性を裏付けるための詳細な調査が必要で、実際の管理資料やヒアリングも含めて、本当にこの事業がそれだけの売上・利益を出しているのかを見ていくのに、かなり時間と労力がかかります。ただし会社ごとではなく事業だけを売却するので、会社にまつわる過去の係争関係や労務的な問題は見なくていいという違いがあります。
阿部俊介

阿部俊介

そうすると、買い手側の視点で考えると、株式譲渡は会社自体を買うので、事業以外も含めた全てのリスクを洗い出してデューデリジェンスを行う必要がある。事業譲渡は当該事業だけを抜き出せばよく、過去に会社に紐づいているリスクがついてこないので、デューデリジェンスは一般的に少なくて済むということですね。ただ、いくつか案件を担当させていただく中で気づいたのが、事業譲渡で事業だけを抜き出したときに、売り手側が申告するそのPLやBS(貸借対照表)が、どういうロジックで抜き出されたものなのかを明確に伝えないと、なかなか買い手側と意見をすり合わせづらいということです。この部分の準備は多少必要になります。
小林正憲

小林正憲

そうですね。

視点②への打ち手:部門別PL

該当事業按分(複数の事業・部門に共通する売上や費用を、一定の基準で配分すること)の信憑性をどう担保するか。二人が挙げるのが、事前の準備です。

阿部俊介

阿部俊介

カーブアウト(事業や部門を切り出すこと)的な考え方に慣れた、M&Aに強い税理士さんでないと、この数字の分け方を正式な書類として出しづらいものです。既存で顧問に入っていただいている税理士さんが、こうした考え方に慣れているかどうかにもよるところです。だからこそ打てる手としては、いくつか事業があるような会社であれば、事業別決算のようなもの、管理会計(社内向けの会計整理)の形でやっておくといいかもしれません。
小林正憲

小林正憲

そうですよね。M&Aをする時にはまず月次で決算を締めましょうと必ずお伝えします。月次かつ部門別のPLをちゃんと出しておくと、事業を売却する際には税理士さんが作成した信憑性の高い資料がある状態になるので、そこはスムーズに進むかもしれません。
阿部俊介

阿部俊介

部門別PLを作るときによくあるのが按分です。この按分のロジックをわかりやすく、あらかじめ設計しておいて、聞かれたらきちんと答えられるようにしておく。この気遣いがあると、そこは突破しやすくなると思います。

視点③:最大のポイントは契約の巻き直し

阿部俊介

阿部俊介

そしてもう一つ、最大のポイントは契約の巻き直しですね。
小林正憲

小林正憲

それは結構大きいですよね。
阿部俊介

阿部俊介

事業譲渡の場合は株式譲渡と違って、その事業にまつわる契約書、取引先との契約だけでなく従業員の方との契約も含めて、全ての契約書を巻き直す必要があります。買い手からすると、取引先や仕入れ先、従業員、業務委託の方の数が多いパターンほど、契約書ベースでの引き継ぎが相当難しくなるので、心理的なハードルが上がりやすくなります。
小林正憲

小林正憲

そうですよね。実際、M&Aで買い手になるような会社は、事業譲渡を嫌がる傾向がありますね。事業に紐付いている取引先数や従業員数が多いと、その数だけ個別にコンタクトを取って契約の話をし直さなければいけません。そのまま引き継ぐことを前提に先方へ話はしますが、正直なところ取引先も従業員も「これを機に」と、関係を続けるかどうかを考え直す話になりがちです。変にきっかけを与えてしまうと、契約の巻き直しという工数だけでなく、取引の継続性そのものを、皆さん一旦見直すきっかけになってしまうんですよね。
阿部俊介

阿部俊介

規模が大きくなればなるほど、事業譲渡は心理的なハードルが高くなりやすい傾向にありそうです。変なきっかけを与えてしまうことになるのも良くないので、そこは一つ念頭に置いておかなければいけないところですね。

補足:買い手はどちらを好むか

ここからは、二人の主観を前提にした整理です。

阿部俊介

阿部俊介

なんとなくですが、一般論として、買い手さんは株式譲渡の方がいいなと言われることが多そうな印象を、我々は持っていますよね。
小林正憲

小林正憲

その覚悟でやっていますからね、買い手のみなさんは。買収する会社のリスクも全部背負う覚悟で、収益も人も丸ごと取り込むという覚悟で臨んでいます。一部だけを切り出した事業譲渡だと、その一部が本当に適切な価値で算出できているのかの証明が簡単ではない。加えて、按分で他の事業と分け合っていた費用や機能が切り離された後も、この事業が単独で回っていくのか。この信憑性の証明も難しいんです。按分などのルールの中で数字は証明できたとしても、そのルールの前提が売り手と買い手で違えば、価値の算出も変わってきますし、この議論は必ず発生すると思います。会社ごと売却する株式譲渡の場合は、これが発生しないコミュニケーションになるんですよね。心理的ハードルは、株式譲渡の方があらかじめ心構えができている分、低いんじゃないかなと感じます。

総括:どちらが良いかは、「なぜM&Aをしたいのか?」から

対談の終わりに、阿部はここまでの論点をこう振り返りました。

阿部俊介

阿部俊介

まず整理できるのは、売却益がどこに入ってくるのかがそもそも違うという話。次に契約を巻き直す必要があるかないかという話。そしてもう一つは、株式譲渡の場合は会社全部のリスクを引き継ぐ一方、事業譲渡の場合は一部だけになる。買い手としては、どちらが手間なのかという好みが出てくる場合があります。どちらがいいということは基本的にはないので、各売り手さんの希望に合わせてどちらにするべきかを考える必要がありますが、それぞれのメリット・デメリットの大枠は理解した上で、売り手さんご自身が判断される必要があるということです。
小林正憲

小林正憲

そうですね。
阿部俊介

阿部俊介

これは我々の主観も含めての話ですが、以前の記事でもお話ししている通り、M&Aはどういった戦略設計をするかによって選んでいく必要があります。その手法として、それぞれにメリット・デメリットがあるというお話でした。

構造化サマリー:株式譲渡と事業譲渡の違い

視点 株式譲渡 事業譲渡
①売却益の入り先と税金 株主個人に入る。個人のキャピタルゲイン課税(分離課税で約20%) 会社の売上になる。法人税で30%強
②デューデリジェンスの中身 会社全体(税務・労務・法務・ビジネス)を既存書類ベースで精査。過去の係争関係も対象 対象事業のPL・BSを切り出して算出。按分ロジックの信憑性を証明するのに時間と労力がかかる。会社全体の過去の問題は対象外
③契約の巻き直しの有無 巻き直しは不要(会社ごと引き継ぐため) 取引先・従業員を含む全契約を再締結。相手に「これを機に取引を見直す」というきっかけを与えるリスクがある
(補足)買い手の心理※二人の主観 全リスクを引き受ける覚悟で臨むため、心理的ハードルは比較的低い 切り出した事業価値の信憑性証明が難しく、按分の前提の齟齬から議論が生じやすい

まとめ

阿部の言う「リスクをどこまで引き継ぐか」は、②デューデリジェンスの粒度を買い手側から言い換えたものです。売却益の入り先と税金、デューデリジェンスの粒度、契約の巻き直しの有無。この3つの視点で整理すれば、株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に合うのかが見えてきます。ここでいう戦略とは、難しいものではありません。売却益を株主個人として受け取りたいのか、会社の売上にするのか。会社ごと手放すのか、事業だけを譲るのか。以前の記事でお話しした「なぜM&Aをしたいのか」の言語化が、そのまま手法選びの土台になります。手法から入るのではなく、戦略から手法を選ぶ。それがM&A BANKが、手法選びに迷う経営者にお伝えしたいことです。

Cross Talk Members

クロストークメンバー

小林正憲

小林正憲

株式会社Wellness X Asia 執行役員 兼 M&A部部長 兼 シニアアドバイザー

大学卒業後、株式会社エスプール(東証プライム上場)に入社し、HR事業において新規支店立ち上げ責任者、エリア長を務め、その後新卒初の同グループの子会社社長に就任。事業推進、人事制度策定をし事業を軌道に乗せ、5年間子会社社長を務めた後退任。
その後、エイチアンドピーイー株式会社(現任)を設立、代表就任し、世界最大級のフィットネスブランド「CLUB PILATES」に加盟し現在都内5店舗のFCオーナーを務める。
また、FCオーナーをしながら株式会社Wellness X Asiaに参画。CHROに就任し人事制度の導入、CLUB PILATESの直営店舗を運営する子会社Boutique Fitness社長を経て、現在は、これまでの会社経営のノウハウを活かしM&A事業本部(現任)で売手専属アドバイザーを務める。

阿部俊介

阿部俊介

株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長

同社でのM&A事業部の責任者として参画し現在に至る。また、並行してメンズ向け育毛剤『REDEN』を展開する株式会社美元の取締役COOとして事業成長担当。

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