M&Aを途中でやめたくなったら? 売り手の「サンクコスト」問題 | M&A BANK
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M&Aを途中でやめたくなったら? 売り手の「サンクコスト」問題

結論から言えば、M&Aは途中でやめてよいものです。
ただし条件があります。買い手やアドバイザーがすでに投じてくれた時間や労力(サンクコスト)を売り手が気にして、「ここまでやってもらったから、今さらNOと言いづらい」と判断が鈍る——この心理が働かない座組み(設計)を、始める前に用意しておくことです。

M&Aの交渉はハードになりやすく、進めるうちに「やっぱりやめたいかもしれない」と売り手が思ってしまうことがあります。そのときに正直に言い出せずに飲み込んでしまう構造をどう避けるのか。

阿部俊介(株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長)と小林正憲(同社執行役員 兼 M&A部部長)の対話から、同社が運営するM&A BANKのアドバイザリーサービスの座組みを紐解きます。

Profile

  • 小林正憲

    小林正憲

    株式会社Wellness X Asia 執行役員 兼 M&A部部長 兼 シニアアドバイザー

  • 阿部俊介

    阿部俊介

    株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長

売り手専属アドバイザーという立場

M&Aのアドバイザーは、売り手と買い手の両者の間に立つ「仲介」と、いずれか一方につく「FA(フィナンシャル・アドバイザー)」に大きく分かれます。M&A BANKは後者で売り手側につきます。お客様(売り手)のご要望がない限り「仲介」はしません。

阿部俊介

阿部俊介

我々は売り手専属アドバイザーと言っていますが、売り手側だけについて、専属のアドバイザー兼エージェントとしてディールをサポートすることに徹しています。買い手からは手数料を一切いただかないので、売り手のご要望に沿ってサポートできる。この体制が正しいだろうと思ってやっております。

続けて小林が挙げたのは「最高のディール」の定義です。

小林正憲

小林正憲

誰からフィー(手数料)をいただくかで、誰のために動くかが決まってくるので、売り手が最高のディールになるようにというのは心がけています。ただ、この最高のディールは、イコール最高額ではないんです。今年(2026年)に入って半年で4件の成約がありますが、最高額ではない意向表明(買い手が買収の意思や条件を示す書面)を売り手が選び、デューデリジェンス(DD、財務・法務等を精査する手続き)を経て成約になることが多いなと感じています。

グループイン(買収されて相手企業グループの傘下に入ること)後の待遇や条件は、売り手自身にはなかなか想像しきれないものだと小林は語ります。

小林正憲

小林正憲

ここも丁寧に紐解いて、その先の想像力を働かせて、売り手がグループインした後に「ここの会社にグループインしてよかったです」と言ってもらえるよう、先回りで話をしなきゃいけないなというのは、すごく心がけています。

売り手のサンクコスト問題

交渉がある程度進んだ後に、「やっぱりやめたいかも」と売り手が思ってしまうことはあります。阿部いわく、それは人情のようなもの。ただ、そこで声を上げにくくなる構造があります。

小林正憲

小林正憲

結構ハードな交渉になりますからね。
阿部俊介

阿部俊介

そうした時に、幸せじゃないなと思うのが、「ここまでやってもらっちゃったから、今さらNOと言いづらいよな」というところなんですよね。「サンクコスト」の問題です。売り手が買い手に対するサンクコストを気にしちゃう。仲介をされている方を悪く言うわけではなく、仲介だとやっぱり両方の目を気にして、片方だけにつくことができない構造がある。我々は買い手からお金をいただいていないから、最悪「すいません、今回はなしにさせてください」と言いやすい。サンクコストを断ち切った意思決定はしやすいなと思います。
小林正憲

小林正憲

実際に、売り手専属アドバイザーでやっていながら、買い手から「ちゃんといいように、こちらにも提案してください」と言葉添えをされる方もいます。しかし、我々は「スタンス的にやらないので」という話をします。買い手からそういう言葉が出るのは、仲介だろうが、FAだろうが、間に入るとそういうものだと定義づけられてしまっているからなんでしょうね。

初期費用は「やめても大丈夫」の握り

売り手が遠慮を感じる相手は、買い手だけではありません。アドバイザーに対しても同じことが起きると阿部は言います。

阿部俊介

阿部俊介

売り手が、我々(アドバイザー)がここまで投じた時間や労力に対してもサンクコストを感じる時というか、申し訳ない、今さら言いづらいと思う時があるじゃないですか。
小林正憲

小林正憲

ありますよね。遠慮されてるなというところありますよね。
阿部俊介

阿部俊介

だからこそ、我々は必ず初期費用をいただくようにしているんです。初期費用は何のためにあるのかと聞かれることが多いんですが、成約しなくてもある一定金額の報酬をいただいているので、やめたくなったらやめても大丈夫ですよ、という握り(お互いの了解)ができている。そうお話しすると、皆さんご納得いただけることが多いです。
小林正憲

小林正憲

我々の報酬は、初期費用をM&A準備費用としてまず1回、成約後に成功報酬としてもう1回。計2回の報酬でやらせていただいていて、売り手のサンクコスト関係なく、嫌になったらやめても大丈夫です、というスタンスですよね。
阿部俊介

阿部俊介

この報酬の形をしっかりと仕組み上握っておくことで、売り手が気遣いなく、自分の気持ちに沿って意思決定ができる環境を整えていこう、という設計にしています。

準備が“壁打ち”になり、「売るのは今じゃない」が生まれる

M&A BANKサロン(M&A BANKが運営する会員制コミュニティ)の会員様からの相談は、近ごろ大きく増えているといいます。

小林正憲

小林正憲

我々が運営させていただいているM&A BANKサロン、この会員様からのご相談が本当に増えましたよね。
阿部俊介

阿部俊介

すごく増えていますよね。
小林正憲

小林正憲

M&A BANKサロン会員様には通常の料金より安くM&Aの相談に乗らせていただいています。入り口はM&Aの話をしていますが、事業計画を1から一緒に作っていったら事業が伸びたという事例が出てくるケースもあります。それにより「これで売却できたらいいな」という金額の見込みを、大きく超えそうになってきて、「もうちょっと事業を育ててから売却した方がいいんじゃないか」と判断をされる方も結構多いですよね。
阿部俊介

阿部俊介

確かに、そういう意味で「やはりやめたい」という風になる時もありますよね。アドバイザリー契約を結ばせていただいて、準備のために事業計画を作る作業が、壁打ち(考えをぶつけて整理する対話の相手役)のようになっていて、伸ばしていく施策をやっていったら事業が伸び、その結果、今のタイミングではなく、「もう少し伸ばしてから売却したい」ということがありました。ここにも売り手のサンクコストの問題があって、我々が準備に投じてきた時間を気にして、「伸びそうだからもうちょっとやりたいのに言いづらいな」ということもありえる。だからタイミングや歩調を合わせてくれるアドバイザーを選ぶのは大事ですよね。
小林正憲

小林正憲

そのようなケースもありますね。大事だと思います。我々は「いや、これでもういっちゃいましょう」とは言わないので。対話をしていく中で、もっと事業を伸ばしたいと売り手がおっしゃるなら、「では、(売却は)今じゃないですね」と、ちゃんと引くようにしています。

準備の過程では、会社の強みと、「成長余地」と捉えている弱みを詳しく聞いていくと阿部は説明します。

阿部俊介

阿部俊介

普段、自社の強みや弱みを深く考える機会は多くないかもしれません。我々のような第三者的な視点が入ると、「成長余地がこれだけ広がっているからそこを対策すればもっと売上が伸びますよね」という話になり、自社の事業の姿がはっきり見えてくる。見えてくると、元々経営能力をお持ちの皆さんですから、次にやるべき打ち手が明確になって、準備をしながら対策を打っていったら、会社がどんどん伸びていく、ということが起きるんですよね。
小林正憲

小林正憲

本当にM&Aの準備をしているうちに、だんだんと元気になってきますよね。これはM&A BANKで支援しているからこそだなと思っていて、阿部さんも私も経営者歴が長いんです。阿部さんは事業会社の社長をずっとやってきました。私も自分の会社を経営しながら、前職は大手上場企業の子会社の社長をやらせてもらっていました。事業計画や部門別PL(損益計算書)を作り込み、株主や親会社にプレゼンする機会が多かったので、どういう視点で考えるかが染みついているんですよね。一人で頑張ってきたオーナー社長にお伝えすると、「こういう感じで事業計画や部門別PLを作っていくんですね」と、参考になったと言っていただけることが多い。経営者経験がないと、ここまで話ができないと思うんです。M&A BANKの売り手専属アドバイザーの特長の一つですね。

買い手との交渉の過程で、やっぱりやめたくなってしまうパターン。事業が伸びて、もう少し売却を後にしようというパターン。この二つのきっかけを踏まえた、阿部の締めくくりです。

阿部俊介

阿部俊介

M&Aを意識し始めると、色々と世界が広がってくるということもあろうかと思うので、その時に、タイミングを変えたいとなった時に、変えられる座組みにしておくというのは、一つ重要なポイントかもしれません。

売り手がサンクコストに縛られないための座組み

局面 何が効くか 仕組み
交渉の途中でやめたくなった 買い手のサンクコストを気にせず言い出せる 売り手専属で買い手から手数料を受け取らない体制
事業が伸びて時期を変えたくなった 「今じゃないですね」と引くことができる関係 第三者視点での事業計画・部門別PL(損益計算書)の作り込みと対話中心の伴走
アドバイザーへの遠慮を感じる 遠慮なく「やめても大丈夫」と言える 初期費用(M&A準備費用)+成功報酬の2段階の報酬設計

まとめ

やめたいきっかけは、買い手との交渉のハードさかもしれませんし、自身の事業が伸びるという嬉しい誤算かもしれません。どちらであっても、売り手が声を上げられずに飲み込んでしまえば、幸せなM&Aとは言えません。買い手から手数料を受け取らない体制、初期費用という「やめても大丈夫」の握り、事業計画づくりを通じた対話。これらが揃うことで、売り手はサンクコストに縛られずタイミングを選び直せます。M&Aは途中でやめてよいものです。その条件を、始める前につくっておくこと。M&A BANKが伝えたいのは、その一点に尽きます。

Cross Talk Members

クロストークメンバー

小林正憲

小林正憲

株式会社Wellness X Asia 執行役員 兼 M&A部部長 兼 シニアアドバイザー

大学卒業後、株式会社エスプール(東証プライム上場)に入社し、HR事業において新規支店立ち上げ責任者、エリア長を務め、その後新卒初の同グループの子会社社長に就任。事業推進、人事制度策定をし事業を軌道に乗せ、5年間子会社社長を務めた後退任。
その後、エイチアンドピーイー株式会社(現任)を設立、代表就任し、世界最大級のフィットネスブランド「CLUB PILATES」に加盟し現在都内5店舗のFCオーナーを務める。
また、FCオーナーをしながら株式会社Wellness X Asiaに参画。CHROに就任し人事制度の導入、CLUB PILATESの直営店舗を運営する子会社Boutique Fitness社長を経て、現在は、これまでの会社経営のノウハウを活かしM&A事業本部(現任)で売手専属アドバイザーを務める。

阿部俊介

阿部俊介

株式会社Wellness X Asia 代表取締役副社長

同社でのM&A事業部の責任者として参画し現在に至る。また、並行してメンズ向け育毛剤『REDEN』を展開する株式会社美元の取締役COOとして事業成長担当。

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