スタンドスティル条項とは、一定期間、買い手候補企業による売り手企業の株式取得などを禁止する条項です。
これにより、買い手は売り手に「敵対的買収をしようとしているのではない」というイメージを与えることができ、売り手は「買い手候補に売却する」以外のオプションを考える猶予が得られるため、双方にメリットがあります。
スタンドスティル条項で株式の買い増しなどが禁じられる
スタンドスティル条項は、買い手候補となっている企業が「売り手企業の許可を得ることなく、株式を取得する」ことなどを一定期間禁止するというものです。買収対象が上場企業で、買い手候補が自由に株式を買い集められる場合により有効な手法と言えます。
一般的には秘密保持契約(NDA)が契約される際、その契約内に盛り込まれます。スタンドスティル条項によって禁止されるのは株式の取得だけではなく、委任状を取得するための勧誘行為なども対象になります。
こういった行為が禁止されることで、買い手が強引にM&Aを進めることができなくなります。
双方にメリットがある
この条項の効果だけをみると買い手候補企業を縛るためだけの条項のように見えるかもしれませんが、実際はより友好的かつスムーズにM&Aを行いやすくなる効果があり、買い手・売り手の双方にメリットがあります。
売り手にとってのメリット
売り手側となる企業にとって、自社の株式を買い集められたり、議決権の委任状を集められたりすると、一気に買収されてしまう恐れがあります。
売り手企業が「とにかく高額で売却できれば良い」とだけ考えているケースはほとんどなく、売却後も雇用が維持されるかどうかなど、売却先を検討する重要な材料は他にもあります。
買収を持ち掛けられた場合、企業を売却する以外に最善の策がないかちゃんと検討したいと考えることが多いはずです。
特定の買い手候補に強引に買収されてしまうことを避けたいと思ったとき、秘密保持契約にスタンドスティル条項を盛り込んでおけば、そのリスクを避けることができます。
買い手にとってのメリット
一方、スタンドスティル条項は買い手にとっても大きなメリットがあります。
買収交渉が難航していても、TOBなどを通じて強引に売り手企業の株式を買い進めることができれば、買収を完了させることができるかもしれません。しかし、強引に買収を進めることには多くのデメリットが存在します。
買収しようとしている企業から「敵対的買収」と見られた場合、ホワイトナイトや第三者割当増資といった買収防衛策を打たれて事態がもつれる可能性があります。また、買収に賛成しない株主が多ければTOBも成立しません。
仮に強引に買収できたとしても、敵対的買収をした新しい経営陣を従業員が受け入れずに組織が機能不全に陥れば、思ったような成果をあげることができなくなってしまいます。
買収にかかる費用がかさむ上にその後の事業運営に支障をきたしてしまえば、買収の意味がなくなってしまいます。
スタンドスティル条項を盛り込んで相手に時間を与えれば、「敵対的買収をしかけているのではない」という印象を与えることができるだけでなく、売り手は猶予されるとはいえ限られた時間の中で買収交渉に応じるか判断することになるため、プレッシャーをかける効果も期待できます。
冷静に交渉しやすくなり、納得のいくM&Aにできる
スタンドスティル条項を入れずに一方的に買収交渉を進めると、お互いにさまざまなリスクが気になって、自社の立場を有利にしようと対立がヒートアップしがちです。
本来行うべき適切な買収交渉がなされなければ、うまくいくはずのM&Aも不調に終わってしまうこともあるでしょう。
もしM&Aが成立したとしても、両社が疲弊し、競争力を失ってしまっては意味がありません。
スタンドスティル条項を盛り込み、お互いが冷静にM&Aというオプションを検討しようとする場を作ることで、双方が納得のいく結果を導くことができるのです。
まとめ
M&Aは、とにかく売買が成立しさえすればいいというものではありません。事業戦略に基づき、買い手企業はさらなる成長を実現し、売り手企業は選択と集中を進めるなど、双方の発展に資するものでなければならないはずです。
スタンドスティル条項は、あえて時間を作ることで円滑な買収交渉を可能にする、潤滑油のようなものなのです。ぜひうまく使いたいですね。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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