会社を第三者に売却する手法のひとつに、事業譲渡があります。この事業譲渡は事業の一部から全部まで、必要な部分だけを売却できるのがメリットです。
経営環境の変化により事業形態を変えたい経営者にとっては、便利な手法といえるでしょう。そこで今回は、この事業譲渡の手続きに関するスケジュールとポイントをご紹介します。
事業譲渡の大まかな流れ
事業譲渡は会社の中で必要な事業を選んで売却できます。それゆえに細かな作業が多く、手続きも煩雑になりがちです。そのために最初にその流れをしっかりと理解しておくといいでしょう。
まず売却する相手先を探して、見つかればトップ同士の会談を行います。条件が合えば基本合意となりますが、次に必要になるのが社内の決議です。取締役会での決議と株主総会で事業譲渡が決定した後に、財産等の名義人変更手続きをします。
それではそれぞれ細かく説明しましょう。
事業譲渡準備
まず事業譲渡を決めたら、譲渡までのスケジュールを組んで会社の内部・取引先の整理を行います。会社を正当に評価してもらうには、過去の実績を整理・分析して将来の売上・利益計画を算出する必要があるからです。
このとき、どれくらいの稼ぎがあるか、価値ある財産を保有しているかを示す収益力と純資産も割り出します。
また、コンプライアンス面の再確認として、不正な取引がないか、税務上問題になる可能性がないかもチェックしましょう。
その上で、どの事業を売却するか、全てを手放すか判断します。
譲受会社の選定
譲受会社の選定は、M&Aを専門とする会社などに相談するのが一般的です。
M&A専門家には民間業者や金融機関、税理士や弁護士がおり、専門業者も譲渡会社と譲受会社の双方の立場に立つ仲介業者と、譲渡会社の側に立って交渉するアドバイザリーとに分かれています。
仲介業者は相手先の事情も把握することで交渉がスムーズに進みやすく、アドバイザリーは譲渡会社の利益が最大限になるよう尽力してくれるのが特徴です。
譲受会社との会合・意見交換
譲渡会社に関心をもつ会社があればコンタクトを取り、情報開示をしてトップ同士の会合をまず行うことになるでしょう。ここで双方の経営者がそれぞれの事業内容や経営理念などについて話し合います。
より高い金額で話をまとめるためには、企業価値を十分に理解できる経営者を選ぶ必要があります。相手の事業内容もしっかり把握しましょう。さらに、従業員を安心して託せる相手かを確認することも重要です。
基本合意契約締結
お互いの意思疎通に問題がなければ、いよいよ事業の売買契約を行うための交渉です。ここで相手企業が事業の譲り受けを検討することを意思表示するために、意向表明書を提出する場合もあります。
続いて、価格など大まかな条件について交渉し、合意が得られたら基本合意契約書を作成します。ここに独占的交渉権が含まれれば、売り手は他の会社と売買交渉ができなくなります。
デューデリジェンス
次に、買い手が「デューデリジェンス」と呼ばれる売り手の実地調査を行います。公認会計士や税理士と共に売り手の会社を訪問し、財務面や法務面などで問題がないかを調査します。
例えばここで資産額が当初と異なると判明すれば、基本合意した価格が修正されます。
取締役会での決議
事業譲渡を決定するためには、取締役会において取締役の過半数の合意が必要です。取締役の過半数をもって事業譲渡が決定します。
事業譲渡契約の締結
取締役会での決議により事業譲渡が決定したら、相手企業との事業譲渡契約を締結します。
売り手はその情報と契約内容が正しいものであることを表明する「表明保証」をします。その後表明した内容と事実が異なることがあれば、損害賠償を請求されるので注意が必要です。
臨時報告書の提出
有価証券報告書を提出する義務がある会社は、次のいずれかの条件に合致する場合に内閣総理大臣に対して臨時報告書を提出します。
1.事業譲渡または譲受けにより資産額が最近事業年度の末日現在における純資産と比べて30%以上減少、あるいは増加する場合。
2.事業譲渡または譲受けにより売上高が最近事業年度の実績と比べて10%以上減少、または増加する場合。
公正取引委員会への届出
譲受会社の国内売上高合計が200億円を超えている場合には、次の条件に当てはまるときに公正取引委員会へ届出を出す必要があります。
1.国内売上高が30億円を超える会社の事業全てを買収する場合。あるいは譲渡会社の事業の重要部分を一部買収する場合、その事業の国内売上高が30億円を超える場合。
2.譲渡企業の固定資産の全て、あるいは重要部分を買収する場合に、その固定資産による国内売上高が30億円を超える場合。
この届出が受理されてから30日が経過するまでは事業譲渡が行えないため、注意が必要です。
株主への通知、あるいは公告
事業譲渡の効力が発生する20日前までに、株主に対する通知を行わなければなりません。これは株主の利益を確保するためですが、反対する株主は株式買取請求権を行使できるようになります。
ただし株式の譲渡制限がない公開会社である場合、あるいは株主総会の決議で事業譲渡等の契約が承認されれば、公告で済ませることが可能です。
公告の場合は費用がかかるので、株主が少なければ個別通知で済ませるのが一般的です。公告を行う場合、官報への掲載なら29,360円必要ですが、電子公告を利用するなら電子公告調査会社の調書が必要です。
利用できる電子公告調査会社は決まっていて、費用は5万円ほどから15万円ほどかかります。債権者に向けて異議申述公告をする場合には必ず官報に公告をしなければなりません。
債権者保護手続きは、事業譲渡の場合は不要です。ただし、債務を移転する場合は個別に債権者の個別同意が必要になります。債権者に対して一括で催告し、1か月以内に返事がなければ同意があったものとみなされます。
株主総会の特別決議
譲渡会社は事業の全部、または重要な一部を譲渡する場合に株主総会による特別決議が必要になります(譲受側は事業の全部を譲り受ける場合に必要)。この特別決議による承認は、事業譲渡の効力発生日の前日までに行う必要があります。
可決の条件は議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権数の2/3以上が賛成となることです。反対する株主は、株式買取請求権を行使して、保有する株式を公正な価格で買い取ってもらいます。
ただし、事業の一部を譲渡する場合、譲渡する資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の1/5を超えないときには特別決議は不要です。譲受会社も、譲り受ける事業の対価として交付される財産の帳簿価額が、譲受会社の純資産額の1/5を超えなければ同様に特別決議は不要となります。
あるいは相手方が特別支配会社の場合、被支配会社では特別決議は必要ありません。特別支配会社とは、株式会社の総株主が持つ議決権のうち90%を有する会社、あるいはそのような会社を有している会社を意味します。
監督官庁による許認可
例えば譲渡会社が有する産業廃棄物収集運搬業許可は、譲受会社が保有しない場合はそのまま引き継ぐことはできません。このように業種によっては、監督官庁から事業に必要な許認可を受けることになります。
財産等の名義人変更手続
最後に事業譲渡契約に基づき、対象事業の財産等を譲受会社へ移転します。預金や土地、建物など譲渡会社の名義で登録や登記が行われているものは名義変更が必要です。
合意が得られていれば債務移転を行います。
また、従業員の雇用契約は自動的に承継されないので、いったん雇用契約を終了した上で譲受会社と個別に契約を結ぶことになります。
まとめ
ポイントは取締役会や株主総会での決議を前提に契約締結を行うことにあります。
また、従業員や仕入れ先、得意先などへの情報公開は契約締結後になるので、いかに情報を守りながら締結へと進めるかが重要です。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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