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【特別編】なぜ「たった」36億円?マネックスによるコインチェック買収の裏側を公認会計士が解説 | M&A BANK

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2018.04.07

#13【特別編】なぜ「たった」36億円?マネックスによるコインチェック買収の裏側を公認会計士が解説

冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

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2021年7月、本件の渦中にいた人物がM&A BANKに登場。
元CFO・木村幸夫氏のインタビューはこちら

 

マネックスがコインチェックを36億円で買収と正式発表

580億円のNEM流出事件を起こしたコインチェックは4月6日、マネックスグループからの買収受け入れを正式に発表した。同日マネックスグループが発表した資料によれば、買収総額は36億円だ。マネックスはコインチェックの発行済株式177万5267株すべてを買い取り、コインチェックを完全子会社化する。また、同資料により、コインチェックの2017年3月期の売上高が約772億円で、営業利益が約7億8600万円、当期純利益が約4億7100万円だったことも分かった(仮想通貨の売却収入を売上高、仮想通貨の売却原価を売上原価にそれぞれ含めた財務諸表に基づく)。

コインチェックCEOの和田晃一良氏の持株比率は45.2%、COOの大塚氏は5.5%だった。単純計算すると、和田氏は今回の会社売却で約16億円を、大塚氏は約2億円を受け取る計算になる。

和田氏と大塚氏は経営責任をとり取締役を退任。執行役員として、新たな経営体制のもと業務執行にあたる。和田氏に代わり、新たに代表取締役として就任するのは、マネックスグループの勝屋俊彦氏だ。マネックスCEOの松本大氏も取締役に就任する。

代表取締役に就任する勝屋氏は、1989年に三菱銀行に入行。2006年にマネックスグループに入社して以降は、マネックスFXの代表取締役社長、マネックス証券の代表取締役社長などを務めてきた人物だ。

コインチェックは今回の発表に際し、「今回の措置を厳粛かつ真摯に受け止め、深く反省するとともに、新体制の下、マネックスグループがオンライン証券業界でこれまで培ってきた経営管理やシステムリスク管理などのノウハウを最大限に生かし、顧客保護を徹底した経営戦略の見直し等を進めて参ります」とコメントしている。

記事引用元:https://jp.techcrunch.com/2018/04/06/concheck-aqquisition/

 

コインチェック買収、3つの疑問

4月6日、マネックスグループはコインチェックの全株式を36億円で買収すると公表しました。このニュースを受けて「安すぎる!」「リスクが高すぎる!」など様々な意見が飛び交っており、この買収劇をどう考えたらいいのか教えてくれと筆者も複数の方から聞かれました。そこで、本稿では気合を入れてこれらの疑問に答えていきたいと思います。
なお、私はコインチェックともマネックスとも一切関係ありませんので、本稿は全て憶測です。コインチェック口座を持っており多少の損失は被ってはいますが一切気にしていません。
 

36億円は高いのか安いのか

2017年3月期の売上高が約772億円、日経新聞によれば直近1年の営業利益が1,000億円以上というインパクトから考えれば、36億円という買収金額は安いという印象も無理はありません。しかし、私は妥当な金額だろうと考えます。ポイントは、買い手は買収金額をどうやって算定するかということです。

M&Aにおける対象会社の評価方法は複数ありますが、大きく分けると①過去の決算書などに基づいて計算する方法(ネットアセット・アプローチ)、②ビジネスモデルや規模が似ている上場会社と比較する方法(マーケット・アプローチ)、③将来生み出す利益計画などに基づいて計算する方法(インカム・アプローチ)があります。
この点、仮想通貨取引所の運営を専業で行う同じような規模の上場会社はないため②は難しく、ベンチャー企業は急成長をしているケースが多く過去の数値は現在の実態を表さないことがあるため、一般的には①も難しいです。そうすると③の方法をメインに検討していくことになります。
③の中では、ファイナンス理論を根拠としたDCF法とよばれる評価方法を使用することが一般的です。この評価方法では、計画上将来にわたって生み出す利益の金額が大きく、かつその計画の実現可能性が高いことが一定のルールにより示されると、評価金額が高くなる計算になっています。例えば将来100億円の利益を生む計画で、その実現可能性が80%であれば80億という評価結果になります(簡略化しているため実務とはかなり違います)。

上記を前提とすると、コインチェックは将来的に「うまくいけば」莫大な利益をあげることができ、そのような計画を作っていた可能性はあります。しかし、仮想通貨交換業者として登録されておらず業務が行えない可能性があるなど、その将来計画の実現可能性は極めて低いと理論上は計算される可能性が高いです。また、仮想通貨NEMの流出問題で多くの顧客と信用を失っていることなどから将来計画自体をかなり下方修正していることも考えられます。

つまり、将来計画上の利益は下がり、更にその実現可能性も大きく下がった、よって過去の数値と比べて評価結果が想像以上に小さくなったと考えられます。

ところで、①ネットアセット・アプローチはベンチャーには難しいと書きましたが、コインチェックであれば使う可能性があります。その理由は倒産の可能性があったからです。このような会社の評価は将来の計画に依存することができず、今時点の価値でしか評価できないため過去の決算書などから現在の価値を評価することがあります。

以上のように、①ネットアセット・アプローチと③インカム・アプローチを組み合わることで、例えば「15億〜40億」など幅をもたせた評価結果を買い手は理論的に算出することになります。
ただし、これらはあくまでも買い手の都合により評価金額を算出するための方法であり、そもそも理論的といっても買い手が意図的に計算結果を調整できる部分も多く、売り手はその金額で売却する義務はありません。おそらく売り手が考える評価金額は36億円をはるかに上回るものだったと考えられます。
 

なぜ「たった」36億円で売却するのか

それではなぜ自分たちが考えているよりもはるかに低い金額で売るのでしょうか。
現在は仮想通貨交換業者は登録制になっています。コインチェックは時限的に業務が認められているみなし業者であり、登録できなければ事業を廃止しなければなりません。そして、NEMを流出させたコインチェックの登録を現状のままで金融庁が認めることは考えられず、コインチェックは単独で生き残る道が実質的には失われていたと考えられます。

とすれば、M&Aはまさに交渉であり、絶対に売らなければならない者と買わなくてもいい者の間で売買の交渉が行われたとすれば、当然後者が有利な条件を主張できる可能性が高くなります。

そんな中でも、売り手にとっての唯一の救いはアーンアウト条項が設定されている点です。アーンアウトとは、M&A実行後、買収対象会社が事前に定めた目標を達成した時、追加で売り手が譲渡代金を受け取ることとする規定です。本件では、コインチェックの2021年3月期までの3年間の純利益合計額に対して2分の1を上限に追加で譲渡費用を支払う計画となっています。

アーンアウトは不確実性の高いベンチャーの買収などに設定されることが多く、売り手の立場では結果を出せば更に多くのキャッシュを手にすることができ、買い手はリスクを低減させることができるというメリットがあります。
ただし、アーンアウトは売り手として注意が必要な点がいくつかあり、本件で言えばアーンアウトの基準が純利益である点です。利益は売上から費用を引いた残りですが、現実には費用についてはどこまでが実際に対象会社で発生しているのかわかりづらい部分があります。やろうと思えば、マネックスの社員をコインチェックに必要以上に派遣し、人件費を増やすことで利益を減らすことも可能なのです。
このリスクを低減する方法は大きく二つあり、一つは調整しづらい売上高をアーンアウトの基準とすること。もう一つは、本件のようにコインチェックの経営陣が売却後も役員として残り、買い手がそのような操作をしないようチェックすることです。
もっとも、これはあくまでも一般論であり、マネックスはそのような姑息なことはせずに、純粋に成果を出してそれを分け合おうとしているだけだと思います。
 

なぜマネックスが買収できたのか

当然、コインチェックはマネックスの他にも声をかけたはずです。ポイントは、なぜマネックスは他社よりも高い金額を提示できたのかという点です。
そこにはマネックスの老獪な戦略があったのではないかと考えています。

コインチェックは仮想通貨交換業者登録可否、NEM訴訟の大きく二つのリスクを負っており、これがあるためにどの会社も高い金額を提示することが難しい状況だったはずです。
この点、4月5日日経新聞に金融庁がコインチェックの仮想通貨交換業者への登録を容認する検討に入るとの記事が出ました。これはマネックスによる買収交渉ニュースが出た直後であり、偶然とは到底思えません。

つまり、マネックスは水面下で金融庁と交渉しており、買収した際は速やかに登録を容認することの内諾を得ていたと考えることができます。そして他社がこのような内諾を得ていなかったとしたら、当然登録容認の可否が不明な分がリスクとなり、他社は提示できる金額も下がります。
一方、訴訟リスクに関しては法務調査(DD)により精査することは当然として、コーポレートガバナンスの分野で著名な久保利弁護士(金融庁参事)を取締役に招聘できていることからも、対策は万全であることが伺えます。
このようにしてマネックスはリスクを最小限に抑えることができたのだと考えることができます。

また、マネックスにとっては是が非でもコインチェックを買いたい理由があるようです。
マネックス自身はここ数年業績が停滞しており、打開策として仮想通貨交換業者への登録を目指すことを検討していました。しかし登録のために100社近くが順番待ちをしている状況で、ここでも大きく出遅れていたため、M&Aによりこのギャップを一気に埋めようという戦略でしょう。
ちなみに、マネックスは2011年に買収したアメリカのオンライン証券会社に関して2013年にのれんの減損損失を計上しています。これの影響かは不明ですが、近年は積極的にM&Aを行っていなかったようです。
そして久しぶりの案件が日本中の注目を集めるM&Aとなり、昨年第二の創業と言っていたマネックスの松本社長としては大勝負になるのではないでしょうか。

個人的にはこのM&Aには賛成で、なぜならコインチェックの経営陣がそのまま主力メンバーとして残るためです。
問題はあったとしても、和田社長は20代で1,000億の利益を生んだ傑物であることには疑いの余地はなく、今後何をしでかすか楽しみでなりません。本件落ち着いた際は、ぜひ一度お話ししてみたいです。

 

以上が本件がニュースになった当時の冨岡の見解でした。
当時のCFO木村氏によると、別の要因もあったそうです。
木村氏のインタビューはこちら

 

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冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。

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