2020.07.09
#70 【実録買い手社長インタビュー】粉飾によるM&Aの失敗
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
特別企画として、M&Aを行なった当事者へのインタビューを記事にしています。
結論から書くと、M&Aの失敗事例についてです。
買収対象の会社は、粉飾決算など不正を行っていました。今回は買い手の経営者がインタビューに答えてくれました。
M&Aを推奨する立場として、このようなことも起こりうるということをお伝えするのがこの記事の目的です。
-まずは自己紹介をお願いします。
市川と申します。株式会社無限の代表をしています。
弊社ではデジタルマーケティングを中心に複数の事業を運営しています。
-どのような形で買収対象企業(以下A社)を知ったのでしょうか
自分たちでインターネット上のM&Aプラットフォームを使い、売りに出ている案件を探しました。
-A社はどのような事業を行っていたのでしょうか
飲食関連のビジネスで、複数店舗を運営していました。
年商は全店舗合計で約7,000万円程度です。
-M&Aの専門家は利用しましたか
はい、FAに依頼しました。また、そのFAが財務DDも行いました。
料金はトータルで200万円ちょっとでした。
弁護士には依頼していません。
-どのように交渉したのでしょうか
A社には社長とオーナー(100%株主)がおり、基本的にはCオーナーと直接交渉していました。
-どのような条件で買収したのでしょうか
買収金額は約5,000万で、売り手の希望金額です。
年間1,700万程度の営業利益が出ていたので、適正金額の範囲内だと考えました。
買収完了した(精算基準日)のは2019年の4月です。
-どのようなスキームでしたか
株式譲渡ではなく事業譲渡です。
A社が役員以外の個人からお金を借りていたり、社員への残業代を払っていないことが判明したので、リスクを遮断するために事業譲渡にしました。
-買収後、どうなりましたか
買収日以降、売上が一気に下がりました。
買収前月は150万/月ほどの営業利益が出ていたのに、買収後50万の赤字に転落しました。
そのため、「なにか自分たちのやり方がまずいのか?」、「2年以上同じ商品を販売していた店なので、急に顧客の飽きが来ているのか?」など、弊社役員が試行錯誤していました。
仮説と検証を繰り返して、可能性を1個ずつつぶしていったのですが、その仮説が尽きてきたある日、ふと役員が「これ、最初の数字がウソなんちゃうかな?」と思ったそうです。
「そう考えると今までの違和感とか全てのつじつまが合う。」という風に、報告を受けました。
役員には、「根拠は無いけど、なんとなくそれしか考えられないという確信」があったそうです。
-どのように不正が判明したのでしょうか
複数の材料の仕入先に問い合わせて、買収以前の仕入れの履歴を送ってもらって確認したら、最初に売り手が開示していた損益の数字と全然合いませんでした。
実際に仕入れた材料から作った商品が全部売れていたとしても、知らされていた売上には全く届かないという状況でした。
ここで確信に至りました。
あとは、過去にモール系に催事として出店していた時の売上も、内容を確認すると明らかにつじつまが合わない販売履歴がいくつも出てきたり、レジ打ちの練習として新人スタッフに自由にレジ打ちをさせていたというスタッフの証言もありました。
-不正に気づいた後、どうしましたか
あやしいと思い調査し始めたのが昨年の8月下旬、ほぼ確定したのが9月の頭です。
そしてすぐに撤退を決定しました。10月頭にスタッフに告知し、11月末で全店舗閉店しました。
粉飾で実は利益が出ない事業ということがわかったのであればそもそも買う理由が完全に消えたことになるので、1日でも早く撤退すべきと考えました。
-架空売上の計上という粉飾ですね。他には何か不正はありましたか
確証はないですが、オーナーの名前も偽名の可能性があります。
-トータルでどのくらいの損失になりましたか
撤退にかかった費用はバラバラとあるとは思うのですが、おそらく数百万くらいだったと思います。
買収金額、買収後の毎月の赤字額、撤退費用等、全て合わせて7,000万くらいで、今会社に残っているお金が1,000万くらいという感じなので、買収費用含めて約6000万くらいのマイナスという感じです。
-契約書に表明保証について記載していましたか
はい、記載してはいましたが今回そこを追求するのは難しいと判断しました。
-どうしていれば粉飾を事前に発見できていたと思いますか
2点あります。
まず、そもそも買う段階から少し怖い案件ではありました。
・オーナーが金庫のお金を帳簿につけずに私用に使っていたりして、現金管理がずさんだった。
・会社がオーナー以外の個人にお金を借りている状況だった。
・社長が某企業に訴訟を起こされた過去があった。
・アルバイトの残業代を払っていなかった。
なので事業譲渡にしましたが、それでもリスクは高い案件だったと思います。
まず、こういった案件に手を出さない方が無難かと思います。
あとは、DDを過信してしまったということです。
リスクはありそうだけどDDして大丈夫だったから大丈夫じゃないか?というスタンスで買収したことが反省点です。
-今後M&Aを検討する経営者に対してアドバイスはありますか
小規模なMAを検討されている方に向けて書きます。
近年、カジュアルなM&Aが増えてきてると思いますが、全体的な統計を取ったら成功率はかなり低く出るんじゃないか?と感じてます。
おそらく経験の少ない人同士の取引になることも多いと思うので、粉飾や訴訟トラブルに発展するリスクが今高いんじゃないかと思います。
買う側も知見が弱いので騙されやすい人が多いでしょうし、売る側もリテラシーが低いので、罪の重さがわからず数字を盛ってしまったり、自覚なく粉飾してしまうとかもありそうな気がしています。
対応策としては、かすかに感じる違和感を見逃さずに自分が納得するまで追求する、エクセルや帳簿上の数字だけではなく、人や現場を見ることが重要かと思います。
いかがだったでしょうか。
詳細開示できない部分もあるのですが、それでもかなり生々しい話が聞けたと考えています。
今回はあえて筆者の意見を書かず、市川さんの回答のみを書きました。
皆さんはどう感じたか、自分ならどうしたか、ご意見もらえると嬉しいです。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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