2020.07.01
M&Aの金額の決め方:企業価値評価とプロジェクションーざっくりつかむM&A⑤
M&Aの金額の決め方に正解はなく、
ある意味お互いが納得さえすれば、どんな決め方でも成立します。
ただ、買い手と売り手の想定額に大きな差がある場合は
根拠をきちんと説明して、相手に納得してもらう必要があります。
売り手となる方は、できれば買い手との初回の面談までに
希望額を根拠を添えて伝えられるよう、準備しておきましょう。
この記事は、
「いつかM&Aイグジット(売却)をするかもしれない」
「とりあえず最低限のことだけ知りたい」
「M&Aの全容をざっくり把握しておきたい」
という方に向けてお届けする全5回の連載の第4回です。
▼予定コンテンツ▼
1. 売却するタイミングの決め方
2. M&Aの進め方:全プロセスと個別相対方式/入札方式
3. 売却スキームの選び方
4. 評価を上げるためのセルサイドDD
5. 価格の決め方:企業価値評価とプロジェクション
「そもそもM&Aをするべきなのかわからない」
「M&Aのメリットや特徴を知りたい」という方は、
まずはこちらの記事をご覧ください。
……『すべての経営者が知っておくべきM&Aのメリット』
……『経営者の“キャリア最適化”の手段にもなるM&A』
余裕があればやっておきたい“企業価値評価”の算出
早く売りたくて値段に構っていられない場合や、
買い手が「どうしても欲しい」状態の場合は
「キリのいい数字」や「なんとなく」でも金額は決まります。
しかし、多くの場合では
買い手の株主も納得できるような根拠が必要になります。
買い手の想定よりも高い金額を希望する場合はなおさらです。
値段が上がるほど、買い手にとっての投資リスクも上がるため
むやみな値上げ要求は禁物ですが、
魅力的な事業を作れており、買い手希望者が複数現れていて、
かつ交渉に労力を割く余裕があるのであれば
「この価値を認めてほしい」というプレゼンを準備しましょう。
企業価値、事業価値、株主価値の違い
そもそも企業価値とは、
・事業価値:事業から創出される価値(のれんや無形資産も含む)
+
・非事業資産:遊休資産、余剰資金 等
の和を指します。
M&Aの場合は、これにさらに
- シナジーの現在価値
- 競合の状況:競合が対象会社を買った場合の負の影響の評価
- 買い手の会計、税務、財務上の状況:のれんの償却 等
が加味される場合もあります。
いずれの場合でも、最終的には
考慮する項目すべて足した総額よりも低い金額を支払う形になります。
期待できる価値の満額を支払うと、買い手の買収メリットがなくなるためです。
また、売り手企業の株主が受け取る(分け合う)額は、
上記の総額から有利子負債を差し引いた値になります。(=株主価値)
企業価値、事業価値、株主価値はそれぞれ異なるので、
算出の際はご注意ください。
“企業価値評価”手法とは
買い手は「そのビジネスが将来生みだしうるキャッシュフロー」に
期待できると信じて、投資(買収)を決断します。
あくまで「期待」なので、その価値評価に決まった答えはありません。
将来予測については複数の考え方があるため、
丁寧に検討する場合は企業価値算定業者に複数のモデルで算出してもらい、
その結果を比較して価格を考えます。
企業価値評価の手法は大きく以下の3種類に分けられます。
- ネットアセットアプローチ(=コストアプローチ)
対象会社のBS上の純資産を株主価値として評価するもの。
例:純資産価値法 - インカムアプローチ
将来キャッシュフローを現在価値に割り引いた合計額を事業価値等として評価するもの。
例:DCF法 - マーケットアプローチ
上場類似会社や類似取引における利益倍率や資産倍率を持ち出で対象会社の価値を評価しようとするもの。
例:類似会社比較法
いずれの手法でも重要なファクターになっているのは
- キャッシュフローの創出力
- キャッシュフローの期待成長率
- 将来のキャッシュフロー創出にかかるリスク(不確実性)
の3つで、これらの基礎になるのが“プロジェクション”です。
“プロジェクション”≒事業計画
プロジェクションとは、予測PL、BS、CFと、それらを決定づける
複数のシミュレーションを含む財務予測モデルの集合体のことで、
たとえば以下のような表を作成します。
- 予測財務諸表:PL、BS、CFの実績値と予測値
- 月次PL
- KPI分析:過去12ヶ月の財務データとKPIデータ
- KPI設定:楽観・中立・悲観のストーリーを検討し、それぞれにおいて異なるKPIを設定
- 人事費:役職ごとの平均給与単価、人数、合計報酬額 等
- 設備投資、減価償却費:それぞれの実績と予測
- 借入返済モデル
- 財務計算モデル
過去データを分析して予測の基礎となるデータを抽出し、予測を立てていきますが
全体の土台になるのは「予測PL」であり、
中でも売上高の予測が最も重要な役割を占めます。
事業の理解がないとこれらの資料作成は難しいので、
主に作業に当たるのは対象事業の関係者になります。
専門書等を参照し、専門家にアドバイスをもらいながら作成するとよいでしょう。
本記事の参考文献
本記事は以下の文献を参考に書かれています。
詳細をお知りになりたい方はこちらをご参照ください。
宮﨑淳平(2018)『会社売却とバイアウト実務のすべて』日本実業出版社
※売り手に支援に特化したアドバイザリーであり、M&A BANK顧問でもある宮﨑さんの著書
“非上場会社の売却”に関わる人向けの書籍。
専門家ではない人にもわかりやすく書かれています。
特に、第二部の物語形式で書かれたM&Aイグジット事例を読むと
M&Aの一連の流れがイメージできるようになるのでおすすめです。
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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