2018.07.07
リスク回避のためにチェックするポイントとは?|フォーサイト総合法律事務所大村代表コラム Vol.7
ベンチャー界隈No.1との呼び声の高いフォーサイト総合法律事務所・大村代表パートナー弁護士をお招きして、ベンチャー企業経営者にとってのM&Aについてたっぷりお話しいただきました。
IPOを目指していた、またはIPOを目指しているものの、M&A(バイアウト)についても理解を深めたい経営者必見の情報が満載。普通はなかなか教えてもらえないM&Aの実情についても大公開してくださいます。
スキームはリスクに合わせて選ぶ
M&Aのやり方は、大きくは株を譲渡するのか、事業を譲渡するのか、さらに後者の場合でも事業譲渡か、会社分割をするのかで分かれます。そのケースに適したスキームを立案するのも、我々の仕事の一つです。
まず一般的に、中小企業を買収するタイプのM&Aだと合併はほとんど使われません。合併や組織的な株式移転は使われず、株式譲渡か事業譲渡が使われるケースが多いですね。
老舗企業の場合も、何が簿外債務かわからないので、株式譲渡も、事業譲渡もあり得ます。
ベンチャー企業のM&Aの場合、通常は既存の株主がいるため、株式譲渡を行って法人を丸ごと買うことになります。
しかし、例えば法人として行政罰、刑事罰を受けているような企業を買収するとき、法人のまま引き継ぐとそのレッテルをそのまま引き継ぐリスクがあるので、事業譲渡でM&Aを行います。
ただ、事業譲渡は事業のみを移すので、法人格は引き継がず、契約関係を切り替える必要があり、それがリスクになるという面もあります。特にB to Cの会社で1万人の顧客と契約を結んでいる場合などは、どうやってそれを移すのか、議論が必要になります。
弁護士がアドバイスする観点
開示の際の法的な留意点はたくさんあります。
株式譲渡の場合、偶発債務や簿外債務が存在する可能性があるので、財務デュー・ディリジェンスを入れるのが通常です。偶発債務や簿外債務の有無のチェックは、基本的に財務デュー・ディリジェンスでやるべきですが、我々弁護士の方でもあぶり出しのため、取引先ともめていないか、警告書を受けていないか、裁判を起こされていないかといったことをインタビューで聞いたりします。
また、株式譲渡でオーナーが変わったときに契約を解除できる、チェンジ・オブ・コントロール条項というものがあるのですが、それが契約書に入っていることがあります。例えば賃貸借契約書などがそうですが、企業を買収してオーナー・チェンジした段階で、賃貸借契約を解除される可能性があるんです。そういう問題が起こらないか、物件の管理者と交渉をしておく必要があります。
加えて、許認可事業の場合、許認可を承継できるかという問題があります。オーナーが変わってもその許認可のままでいいのか、チェックしないといけません。人材紹介業、派遣業、運送業などがこれに該当してきます。
その会社のビジネスが違法なことをやっていると買収したあとに困るので、適法かどうかもデュー・ディリジェンスの対象としないといけません。スキーム自体に問題があるケースもあるので、これもチェックする必要があります。
そして、全株取得できるかどうかも重要です。一部の株が残ると、その株主が株主権を行使したり、総会のたびに主張をされて大変な場合がありますから。
事業譲渡の場合は事業を買うので偶発債務、簿外債務は問題にならないですが、事業は承継できても、財産、契約は相手方の承諾が必要になります。財産の話をすると、不動産は登記を移転すればいいですが、それ以外に移せるかどうかわからない財産もあります。
また、そもそも借金まみれになっている会社が事業譲渡する場合もあります。それは詐害行為にならないか?例えば負債総額10億円の会社の事業を5億円で売ったという話は詐害行為にならないのか?という話になるかもしれません。
知っている法律事務所に頼めば大丈夫?
このように、M&Aは様々な知識が必要で、いわば総合格闘技のようなものです。さらに法律の他に税務や会計もかかわりますから、我々弁護士がこれでいいと思ったものも、税理士的にどうか(法的に問題がなくても、多額の税金がかかってしまわないか等)とか会計士的にどうかということも確認すべきです。弁護士だけだと片手落ちになってしまうので、税理士や会計士と一緒に行うのが望ましいですね。
また、M&Aを成功させるためにはスキームを遂行するための幅広い手続きの知識や経験が必要ですから、名前をよく聞くから、など安易な理由で法律事務所を選ぶのは論外です。
例えばバイサイドの場合、株式譲渡は取締役会決議でできますが、事業譲渡をする際には総会決議が必要になる場合があります。会社分割も、規模によっては総会決議や取締役会決議が必要となります。
そういったことを知っていて、実績のある法律事務所に頼むべきです。
また、企業法務をしている法律事務所であっても、日本では多くの場合中小企業の法務が中心ですから、M&Aに必要な知識や実績があるとは限りません。M&Aのデュー・ディリジェンスに業務内容が近しい、上場会社の顧問や上場準備会社の企業法務をやっているような法律事務所に頼まないと、M&Aの十分なサポートを得ることは困難です。
【最終回】次回更新は7月11日(水)、気になる依頼料について教えていただきます。
代表を務める法律事務所は、生え抜きの弁護士・司法書士が所属し、幅広い業種のベンチャー企業に対する法的支援業務を展開する。IPOや市場変更、M&Aの支援実績も多数。複数の上場企業で社外役員も務める。
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