2020.06.25
売却スキームの選び方ーざっくりつかむM&A③
この記事は、
「いつかM&Aイグジット(売却)をするかもしれない」
「とりあえず最低限のことだけ知りたい」
「M&Aの全容をざっくり把握しておきたい」
という方に向けてお届けする全5回の連載の第3回です。
▼予定コンテンツ▼
1. 売却するタイミングの決め方
2. M&Aの進め方:全プロセスと個別相対方式/入札方式
3. 売り方:売却スキームの選び方
4. 売却戦略の立て方:セルサイドDD
5. 価格の決め方:プロジェクション(事業計画)と企業価値評価
「そもそもM&Aをするべきなのかわからない」
「M&Aのメリットや特徴を知りたい」という方は、
まずはこちらの記事をご覧ください。
……『すべての経営者が知っておくべきM&Aのメリット』
……『経営者の“キャリア最適化”の手段にもなるM&A』
前回の記事ではM&Aのプロセスについてご説明しました。
今回はその中の「交渉の下準備:作戦フェーズ」にあたる
“望ましい売却スキームの検討”部分を取り上げます。
会社(事業)を売却するスキームは大きく7種類あり、
さらに細かい工夫をすることも可能です。
最適なスキームを選ぶためには、税務・法務・ビジネスなど
多くのポイントを踏まえた総合的な検討を行う必要があります。
専門家に相談するべきなのはもちろんですが、
その際により適切なスキームを提案してもらえるよう、
対象会社の状況や希望する条件、買い手側の要望などを
売り手経営者から伝えられるようにしておきましょう。
この記事では、
- 7種類のスキーム
- 代表的なスキーム:株式譲渡と事業譲渡
- スキームを選ぶ際の観点となること
についてご紹介します。
7種類のスキーム:どんなスキームがあるか?
まずは、経営権を譲渡する7種類の方法をごくごく簡単にご紹介します。
かなり大まかな説明なので、気になるものは
より詳しい書籍等を参照してみてください。
- 株式譲渡
オーナーなど現株主が株を譲渡/対価として現金を得る - 第三者割当増資(支配権が異動するもの)
新たに発行した株を譲渡/会社に対価が入る - 事業譲渡
ビジネスなど特定の部分を選んで譲渡/対価が会社に入る - 合併
売却対象会社が消滅する/対価は買い手(存続会社)の株式が基本 - 会社分割
特定の事業を子会社化して譲渡/対価は買い手会社の株式が基本 - 株式交換
オーナーなど現株主のすべての株を譲渡/対価は買い手会社の株式が基本 - 株式移転
新設する持株会社へすべての株を譲渡/対価は新設持株会社の株式
スキームによって対価の種類や税率に違いも出ますが、
さらに細かい条件があったり、工夫できる部分もあったりで
なかなかわかりやすい分類ができません。
加えて、他のスキームとの共通点の多いものもあります。
そのため、「ぴったり合うスキームを選ぶ」というより
「状況や優先事項に合うスキームを専門家と相談して設計する」
イメージで進めるとよいかもしれません。
なお、これらの取引を実施する際、条件によっては
買い手・売り手双方の株主総会での特別決議による承認が必要です。
特に、下の4つは組織再編行為に当たるため、会社法で手続きが厳格に定められています。
代表的なスキーム:株式譲渡と事業譲渡、類似スキームとの比較
代表的なスキーム①“株式譲渡”の主な特徴
- 最も多く使われる手法
- 買い手・売り手の合意があれば基本的に成立
- オーナー経営者の手取り額が大きくなりやすい
…株主に対価が入り、税率もキャピタルゲイン課税(20%)と低いため - 100%の譲渡だけでなく、部分的な支配にとどめることも可能
- 売却対象会社が上場企業だと、株式公開買い付けにする必要がある場合も
- 連結会計上で発生する「のれん償却」は税務上損金算入されない
類似スキーム:株式交換
株式交換の対価を「金銭等」にすることも可能なので株式譲渡と似ているが、
株式交換の場合、会社法上の手続きが必要
代表的なスキーム②“事業譲渡”の特徴
- 契約時に個別に明記し、同意を得た財産だけを譲渡する
- 労働契約や取引契約のまき直しが必要
- 対価は会社に入るので、資金調達のような側面もある
- 課される税率は35%程度(法人実効税率)
- さらに個人に配当した場合は(みなし)配当課税が課される
- ただし、欠損金と相殺させることで法人税を圧縮することは可能
- 買い手は資産調整勘定(税務上ののれん)を5年間で均等償却、損金算入できる
類似スキーム:会社分割
事業譲渡と比べて「包括承継」であるという見方が強く、
基本的には個別対処せずに包括的に承継されるため、手続きがより簡素
ただし、債権者保護手続きに最低1か月かかる
分割型分割というスキームであれば、個人株主が対価を受け取ることも可能
スキームを選ぶ際の観点:どのポイントを重視したいか?
スキームによって違いが出るポイントとしては以下のようなものがあります。
専門家にスキームを相談する際には、どれを重視したいか、
中でも優先したいことはあるかなど、できるだけ詳細に共有しましょう。
- 売却対象
会社の一部 →事業譲渡、会社分割
会社全体 →その他 - 対価の受領者
会社 →第三者割当増資、事業譲渡、会社分割(中でも分社型分割の場合)
株主 →その他 - 対価
現金 →株式譲渡、第三者割当増資、事業譲渡
株式 →その他 - 対象会社の存続、買い手との関係
消滅 →合併
存続、対等に統合 →(共同)株式移転
子会社化 →その他(事業譲渡を除く) - 売り手への課税
有 →株式譲渡、事業譲渡
無 →第三者割当増資
条件次第(税制適格か等) →その他 - のれんの扱い
スキーム選びには既存株主との関係や契約内容も影響するので、
そちらも合わせて検討するとよいでしょう。
売却スキームは売り手側だけで決められることではありませんが、
前回の記事でも触れたとおり、不利な交渉にしないためには
売り手側からも希望を伝えることが大切です。
売却すると意思決定できたら、
どの観点を重視してスキームを選びたいか、自身でもある程度考えておき
専門家により具体的な相談をして、よりよい提案を引き出せるようにしましょう。
本記事の参考文献
本記事は以下の文献を参考に書かれています。
詳細をお知りになりたい方はこちらをご参照ください。
宮﨑淳平(2018)『会社売却とバイアウト実務のすべて』日本実業出版社
※売り手に支援に特化したアドバイザリーであり、M&A BANK顧問でもある宮﨑さんの著書
“非上場会社の売却”に関わる人向けの書籍。
専門家ではない人にもわかりやすく書かれています。
特に、第二部の物語形式で書かれたM&Aイグジット事例を読むと
M&Aの一連の流れがイメージできるようになるのでおすすめです。
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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