2019.01.25
#59 バイアウトファンドから資金調達するということ
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
株式会社乃が美ホールディングスへの資本参加について
この度、クレアシオン・キャピタル株式会社(以下、「当社」)は、当社の管理・運営する 投資ファンドが出資する株式会社 Crust ホールディングスを通じ、株式会社乃が美ホールディングス(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:阪上雄司、URL:http://nogaminopan.com/)(以下、「乃が美」)に資本参加しましたのでお知らせ致します。……
引用元:http://www.crea-cp.com/wp-content/uploads/2019/01/20190121_NGM.pdf
ちょうど話題になった、「ファンドからの出資」案件
1月21日、クレアシオン・キャピタル株式会社は管理下のファンドを通じて、株式会社乃が美ホールディングスに出資したことを公表しました。
ちょうど今日、M&A BANKの動画の撮影があり、上場会社やファンドなど、売り先の属性による違いを少し解説していました。
本件はファンドへの売却案件ではなく、ファンドからの出資受け入れということですが、同じことがいえるので題材として取り上げます。
資金調達を行なったのは、最近「生」食パンで大ブームのあの乃が美です。
筆者もお土産などで何度かもらったりすることがありました。食パンをお土産でもらうって一昔前だったら絶対なかったと思うんですよね。乃が美はそんな価値観を作った会社です。
驚いたのがすでに全国で111店舗展開しているそうです。にも関わらず東京初出店は2018年11月というのがまた面白いですね。
業績も好調でしょうし、積極投資のため資金調達するというのはわかります。それがなぜファンドからの調達だったのか。
ファンドから調達する会社の特徴
クレアシオンのリリースには、乃が美に出資して上場支援します、と書いてあります。これは他の多くのケースでもファンドからの出資受け入れ理由になります。
かなり大きな規模の会社でも、経営管理、人事、経理などにそこまで力を入れておらず、中小企業に近い運用をしているケースはかなりあります。
上場準備に入るため自社で全て対応するケースもありますが、専門知識が必要だったり、対応できる人材の採用が難しかったり結構大変です。
この点、バイアウトファンドはもちろんM&Aもありますが、投資先を上場させることが仕事ともいえるため、上場支援を得意としているケースは多いです。
また、特にクレアシオンは自社のホームページ上でも「IPO Exit志向」ということをファンドの特徴として掲げています(クレアシオン・キャピタル株式会社HPより)ので、上場へのコミットは強いでしょう。
店舗型飲食店ビジネスは、よく投資対象になる
さらにクレアシオンは、過去に居酒屋の「えん」や定食屋の「おぼんdeごはん」を運営する株式会社ビー・ワイ・オーにも投資しており、持ち帰りを基本とするパン屋とは業態が違うものの店舗型飲食店ビジネスという意味では肌感はあったのでしょう。
店舗型ビジネスがファンドの投資対象になるケースは多いです。
「売上と利益を伸ばすために店舗数を伸ばしましょう」「1店舗当たりのコストを最適化しましょう」という施策を取ることが多く、将来の数字が他業種よりは読みやすいためです。それを実現させるのがとっても大変なのですが。
じゃあ飲食店はなんでもファンドに売れるのかといったらもちろんそんなことはありません。1店舗当たりの規模等にもよりますが、数店舗の状態ではファンドの投資先になることは難しいケースが多く、数十店舗以上ある状態だと候補になりやすいです。そして投資を受けて、100店舗目指しましょう、海外進出しましょう、その過程で上場しましょう、というストーリーです。
そういえば筆者の出身ファームであるフロンティア・マネジメントが運営するファンドでも昨年「俺のフレンチ」などでおなじみの俺の株式会社に投資していました。
投資される側の立場
投資される会社の経営者にとっても、ファンドからの投資はいい話であるケースが多いです。
経営者が保有する株式の一部をファンドに売却し、その後も経営に関わる場合は、一部売却時点で部分的にExitしてまとまった資金を手に入れることができるうえ、更にIPOも目指すことができます。筆者が勝手にDual Exit(デュアルイグジット)と言ってるやつですね。
M&AとIPOを同時に経験する可能性があるということは、経営者にとって魅力的な選択肢であることが多いです。なんだかんだいってIPOしたい、という経営者は多いですから。
事業会社への売却でも同じことは可能で、相手が上場会社だった場合は親子上場を目指すことになるかと思いますが、以前書いたとおり親子上場はなかなかハードルが高いです。
このように、ファンドからの調達、ファンドへの売却というのはハードルが高いように思えるかもしれませんが、選択肢の一つとして十分検討する価値があると思っています。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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