2020.05.14
#68 ユナイテッド新事業方針で明らかになるM&Aの成否
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
ユナイテッドは5月8日に通期決算を公表しました。
ユナイテッドといえば、M&Aを経営戦略の中心として取り組んでいる国内でも指折りの会社です。
M&A戦略をとるとはどういうことなのか、今回公表された資料の中にとてもわかりやすい事例があったので取り上げます。
M&Aの顛末
1年以上前ですが、こんな記事を書きました。正直自分でも忘れてました(笑)
M&Aは実行時のみが大きなニュースとなり、その結果どうなったはあまり知られていません。
ユナイテッドのリリースではその結果がはっきりしています。
トライフォート(ゲーム事業)は約26億の特別損失を計上、一部事業を分割後、トライフォート社株式は創業者へ譲渡という結果になりました。
いかがでしょうか。もちろん、良い人材を採用できた、新たな知見が得られたなど外部からはわからない利益もあったでしょう。そういう意味では当事者にとってみれば失敗ではないかもしれません。
ただ、短期間でこれほどの損失を計上し、かつ事業として撤退しているのであれば、外部者からはこのM&Aは失敗だったと評価されても仕方ありません。
もう一つのM&A
同じ資料内で、過去に行われたもう一つのM&Aについても結果がわかります。
ユナイテッドは、2016年にキラメックス社株式58.8%を約3.5億で取得し、その後株式交換により完全子会社化しています。キラメックスはオンラインのプログラミングスクール「TechAcademy(テックアカデミー)」を運営しています。
買収から4年経ち、結果としては買収後売上高は年平均約73%で成長中となっています。情報が少ないのですが、現時点でこのM&Aは成功だったといえそうです。
資料内では、トライフォート(ゲーム事業)は整理対象事業とされ、一方キラメックス(DXプラットフォーム事業)は成長期待事業とされ、今後の成長戦略の柱に置かれています。
簡単にいえば、失敗した事業も成功した事業もM&Aにより獲得した事業です。
このように、M&A戦略をとっている会社は、一つ一つのM&A案件毎の結果だけで会社全体を評価すると見誤ります。
この戦略をとる当事者目線でいえば、成功も失敗もある前提で計画を実行する必要があります。
日本電産の永守会長はM&A60連勝(自称)とのことですが、これは例外中の例外です。
教科書の実践
ユナイテッドは他にも面白い経営戦略をとっています。
上記の成長期待事業とは別に、収益期待事業という事業区分があります。
これは積極的に投資をして拡大していくよりも、安定的に収益性をあげる事業群をさします。
これを読んで、まるでボストンコンサルティンググループのプロダクトポートフォリオマネジメントを実践しているようだと感じました。
「カネのなる木」の収益期待事業からキャッシュを産み、それを「花形(or問題児)」の成長期待事業に投資する。「負け犬」の整理対象事業は撤退を決断する。
経営戦略の教科書には必ず載っている王道の戦略ですが、実際に実行している会社はそう多くはないと思います。
この戦略実行の難しさの一つに、全てを自前で行えない、という点が挙げられます。
そしてその難しさをクリアする手段として、ユナイテッドはM&Aを利用しているとも考えられます。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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