2020.12.08
#73 外壁塗装業界の連続M&Aにみる、三手先を見て次の一手を指す経営
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
2020年7月、ポート社はドアーズ社買収を公表しています。
本件の詳細についてはポートのIR資料や、担当M&Aアドバイザーによるウラ話が参考になります。
「外壁塗装の窓口」M&Aの目的について
(ポート社IR資料)
【特別・長編】成立したばかりのM&Aを振り返るZOOM座談会
(担当M&Aアドバイザーによるウラ話)
【高額買収の謎】外壁塗装マッチングサイト事業の高評価ポイントとは
(春日代表インタビュー動画)
今回は違った角度、ドアーズ経営者の観点でこのM&Aを解説します。
いかに先見の明があったかがわかるポイントを2つ紹介します。
絶妙な参入タイミング
ドアーズは2008年創業であり、外壁塗装の比較メディアでは最古参の会社です。つまり、この業界を牽引してきた会社といえます。
リフォーム業界全体はこれといって大きな成長をしているわけではありませんが、IT化が非常に遅れている業界であり、「リフォーム×IT」という括りでみれば大きな拡大余地のあるマーケットです。
この領域にいち早く参入したという事実が、シンプルに目の付け所が違うといえます。
売却タイミング
そして、次に売却のタイミングです。
事業は順調に伸びており、おそらく売却しなくても一定程度の売上及び利益を作ることはできたでしょう。IPOを検討し始めてもいいフェーズだったはずです。
にも関わらず、売却を選択しています。
ここで、この「外壁塗装の比較メディア」という業界の競争環境をみてみると、競合メディアの「ヌリカエ』運営のspeee社が2020年6月に東証JASDAQ市場への上場を公表しています。
また、東証一部上場上場のじげん社は同年10月にブランディングテクノロジー社より「外壁塗装コンシェルジュ」を買収しています。
このように、2020年は上場して多額の投資を行いながら急拡大を目指す競合企業が勢いを増してきている年と位置付けることができます。
そうであれば、いかに優秀な経営者が先行者メリットをもって戦ったとしても、そう簡単には勝ち続けることはできないでしょう。
そんなタイミングでのM&Aイグジットです。
特にじげんの参入はドアーズ社買収の後の出来事であり、これを予測してのことではないでしょうが、市場環境がこのような流れにあることはおそらく感じ取っていたのでしょう。
プログラミング業界
これは他の業界でも同じことが起きています。
プログラミング教室『ロボ団』を運営する夢見る株式会社の重見社長は、2019年12月に全株式をエディオン社へ売却しました。
これも、重見さんが創業した2012年というタイミングは、プログラミングの義務教育化が公表される前であり、このときにはすでに業界上位に位置していました。
そして義務教育化公表後、大手が本腰を入れて参入しようとしていたタイミングで、その大手にM&Aイグジットをしているのです。
三手先を見て次の一手を指す経営
このように、イグジットを成功させる経営者には共通点があります。
それは、三手先を見て次の一手を指す経営です。
リフォーム業界のIT化、子供向けプログラミング教室の拡大という今後成長するマーケットにいち早く参入すること。
そして、大手が後から参入してくるタイミングで彼らと手を組むこと。
これがもし、成長マーケットでなかったら、激しい競争に晒され続け消耗してから意思決定していたら、このようのイグジットを迎えることは至難の技だったでしょう。
今回は両者ともにM&Aを選択しましたが、もちろんIPOイグジットを目指すこともありえます。
両者の経営手法は多くの経営者にとって参考になるはずです。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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