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#17 ダイムラー・ベンツのクライスラー買収を振り返る | M&A BANK

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2018.04.24

#17 ダイムラー・ベンツのクライスラー買収を振り返る

冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

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ダイムラー・ベンツのクライスラー買収の狙い・背景

ダイムラー・ベンツは『メルセデス・ベンツ』という世界に知られた高級車ブランドを抱えるドイツの企業です。そんな同企業が、1998年にアメリカのビッグスリーの一つとして広く知られる企業「クライスラー」を買収し「ダイムラー・クライスラー」として合併しました。

この合併は「世紀の合併」と呼ばれるほどのインパクトがありました。そのため、様々にあるM&Aの中でも、トップレベルで有名な事例です。

高級車メルセデス・ベンツを所有するダイムラー・ベンツと、アメリカの大手車メーカーの莫大な資本提携を可能にすることによって生まれるシナジー、そしてそれによるビジネスの著しい加速を狙いとしていました。また、ダイムラー・ベンツとクライスラーの合併は「対等合併」であることが特徴です。

買収額は?

ダイムラー・ベンツによるクライスラーの買収は約360億ドルで行われました。買収に伴う金額としては非常に大きなものであったため、市場ではこの取り引きを、リスクが高いと判断します。

しかし、ダイムラー・ベンツは、世界の最大手2社の合併により生まれるシナジーは膨大であると考え、ハイリターンを期待し、リスクを承知で合併を決定します。

なぜこのM&Aが失敗に終わったか

結論から言うと、この買収は失敗に終わります。今回のケースでは、ルールや順序を重んじるドイツ資本の企業であるダイムラー・ベンツと、アメリカ資本でオープンなカルチャーを持っていたクライスラーの文化的な違いが、まず大きな亀裂を生んでしまったと考えられます。

合併が決まり、統合した企業として力を一つにしなくてはならないタイミングで役員勢が一同に退職してしまうなど、企業としての根幹に関わる部分で良いスタートを切れなかったのが最大の原因と言えるでしょう。

その後どうなったか?

ダイムラー・ベンツとクライスラーが対等合併し誕生したダイムラー・クライスラーは、その企業体質や文化の相違、そして名ばかりの対等合併であったために起こった優秀な社員の流出により弱体化します。最終的に9年間の協業体制を解消し2007年5月にサーベラス・キャピタル・マネジメントにクライスラー部門を74億ドルで売却することとなりました。

クライスラーの長期的な経営再建を目的とした買収でしたが、その売却も残念ながら失敗に終わり、現在ではフィアット・クライスラー・オートモービルズとしてその企業の歴史を歩んでいます。

では、どうすればよかったのか?


M&Aの世界では(というかビジネスの世界では)たらればは禁句です。しかし世紀の失敗ディールから学べる点は数多くあるため、改めて当時どんな経営判断が考えられたのか検討してみましょう。

定性的なリスクの考慮

まず、自動車会社同士のM&Aでは共通化によるコスト削減などわかりやすい規模の経済が働くと考えられ、また競合との熾烈な戦いがあることは容易に想像がつくため成長手段としてのM&Aが行われること自体は正当化されたでしょう。ただし、高価な自動車の中でも高級ラインの製品を取り扱っていたダイムラーにとって、共通化は没個性につながり競争優位の源泉を失うことになるといった定性的な点をもっと考慮すべきだったかもしれません。

その上で、今回言われているような文化の違いが失敗原因だったかといえばこのケースだけでは正直なんとも言えません。文化が違う企業のM&A自体は一般的に行なわれているものです。
ただ、一つ参考になるのはダイムラーによる三菱自動車および三菱ふそうトラック・バスのM&A(出資含む)のケースです。このM&Aもやはり失敗だったと言われており、その原因はダイムラーによる強権的な管理方針により従業員が離れたことが大きな要因とされています。同じ自動車業界でのM&Aで2件大きな失敗があればこれは偶然だと言うことは難しく、ダイムラーのM&A後の買収対象会社のマネジメント方法、つまりPMIには大きな問題があったと言えそうです。
とすれば、ダイムラー・ベンツが正しいPMIを行なっていればクライスラーも三菱自動車もうまくいっていた可能性があるかもしれません。

ルノー=日産アライアンス との比較

別の切り口でいえば、M&Aスキームの論点もあります。
1999年、経営危機に陥っていた日産に出資することにより傘下に納めたルノーですが、合併ではなくあくまでも株式保有による子会社化をしており、現在は約43%の株式を保有しています。ルノーは日産に対し支配的な管理方法を取っていません。いわゆるルノー=日産アライアンスと言われ、互いの企業文化やアイデンティティを尊重し合う経営を行っており、この点は日産もIR等で度々主張しています。
一般に合併よりも株式保有による子会社化の方が企業文化や経営の独立性を維持しやすいため、M&Aのスキームもその成否に影響を与える影響の一つと考えられます。

ちなみに、2017年12月、ルノー=日産アライアンスとダイムラーが新エンジンを共同開発したというリリースがなされ、2018年4月現在はルノーと日産の合併の可能性があると報道されています。激動の時代を迎えている自動車業界の中で、今回取り上げた各社も業務提携を含めたM&Aを積極的に推進していますのでますます目が離せません。

 

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冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。

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