事業を成長させるための有効な手段として、M&Aは近年になって増加傾向にあります。売り手側、買い手側にとってwin-winの関係になることがもっとも望ましいM&Aですが、実施時には想像していなかった、譲渡・売却対象となっている事業の問題点が浮き彫りになることもあります。
今回はM&Aを実施するにあたって発生するスタンドアローン問題にスポットをあて、その特徴や対策について解説していきます。
スタンドアローン問題とは
スタンドアローン問題(スタンドアローン・イシュー)とは、M&A後に買収対象会社が資本関係にあった親会社やグループ企業から離脱したことにより、売上高の減少や有利な条件の取引先などを喪失、メリットが得られなくなることを指します。
具体的には、次のようなものがスタンドアローン問題に該当します。
全社共通サービス | 今まで提供を受けていた全社共通サービスが受けられなくなる。その代替策として、新たな業務委託や雇用が必要となる。 |
グループ会社取引 | グループ会社からの資金提供やグループ一括提供の安価な原材料、サービスの提供を喪失する。 |
ブランド・顧客情報 | 売上に大きく寄与しているブランドを喪失する。 グループ会社からの有用な顧客情報や技術提供を喪失する。 |
さらに、スタンドアローン問題は必ずしもグループ企業間に限った問題ではありません。例えば、買収対象会社のオーナー・経営者の個人的な信頼関係で成り立っていた取引先などが、M&Aでオーナー・経営者が変更するに伴って、従来までの取引を打ち切ってしまう可能性も十分に考えられます。
このように、買い手にとって、スタンドアローン問題はM&Aのメリットを享受できなくなる大きな問題です。スタンドアローン問題があった場合には、買収対象会社の企業価値や収益力などに及ぼす影響の程度を見極め、買収の価値があるのかどうかを慎重に見極めることが最重要となります。
スタンドアローン問題を回避するには
M&Aの前に、買収する側はデューデリジェンス(企業価値評価)を実施するのが一般的です。デューデリジェンスとは、買収する側が買収対象企業やその事業に関する情報を収集、分析及び検討する手続きのことで、通常は事業、法務、税務、会計などの観点からおこなわれます。
M&Aの契約の前にデューデリジェンスを実施することにより、権利義務関係、企業価値評価に必要な情報、取引実行に必要な手続き、M&Aの支障となりうるリスクを浮き彫りにします。買手企業はデューデリジェンスの結果を踏まえて、M&Aを実行するべきか、最適なストラクチャーは何か、生じるリスクについての対策などを勘案しなければなりません。また、買収対象会社が現在のグループ内における位置づけや機能、取引先との関係等を把握しておく必要があります。
例えば、買収対象企業が売上を左右するような主要な取引先と交わした契約書に、株主等が変更した際に契約を解除できる旨を定めた条項があった場合、買収後も当該の取引先が取引を継続するか否かについての調査が必要となります。もし取引が継続されないとなれば、本来の企業価値から控除すべき案件となる可能性が考えられるでしょう。
多くの中小企業では、オーナー・経営者の個人的な信頼関係に基いて取引を継続しているケースが多いため、M&Aが実行されたことで経営者が変わると、既存の取引先が取引量や取引価格を変更したり、取引自体を打ち切られたりすることもあり得ます。このように、M&Aが買収対象会社の企業価値や収益力等に及ぼす影響の程度を見極め、スタンドアローン問題の所在を明確にし、解決策・代替策を検討していくことが重要です。
最後に
スタンドアローン問題を解明するためには、現状をしっかりと把握すること、M&Aによって変化する外部環境に対応するための戦略を策定すること、そして将来の課題設定と解決策をしっかりと検討することが必要となります。
売り手側、買い手側で、多角的な視点で客観性の高い議論をおこなうことで、スタンドアローン問題の分析精度や効率性が高まり、両者にとってより成功と言えるM&Aを実現することができます。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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