2018.06.25
#33 これをきっかけに「身売り」という言葉を使うのはやめよう
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

日本のスタートアップ企業が、成長資金の確保や市場開拓を狙い大企業による買収を選ぶ動きが広がっている。2018年1~5月の国内の買収件数は前年同期比で3割増え、新規株式公開(IPO)件数を上回った。日本は米中に比べ新興企業に集まる資金が少なく、新たな技術革新を生む土壌が乏しい。IPOに加え大企業の資金や技術を活用する選択肢が増えれば、スタートアップのすそ野拡大や技術革新のスピード向上につながる。
記事引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32033000Q8A620C1MM8000/
IPOよりM&A
「スタートアップ、上場より大企業に売却 初の逆転」
これは6月21日の日経新聞電子版の記事のタイトルです。2018年1~5月の間の未上場企業対象の買収件数は26件、同期間のIPO件数は25件だったそうです。
日本ではずいぶん前から、ベンチャーのEXIT手段はIPOしかないから問題だ、みたいな論調は多くありましたが、その点今回のニュースは大きなインパクトがあったんだろうと思います。
もちろん、5ヶ月間の統計なので2018年1年間でみたらIPOの方が多くなるかもしれないし、未上場企業の買収が全てベンチャーの買収とは限らないし、突っ込みどころは色々あるかもしれませんが、日経新聞にこのような記事が載ったことが重要です。
M&Aが増えるのは当たり前
M&A件数がIPO件数を上回るのは時間の問題でした。
ベンチャーキャピタル(VC)によるベンチャー投資自体は年々増加しています。
一方、IPO数は過去3年80社~100社程度で推移しており、取引所も明言してますが今後も同程度になる可能性が高いです。
つまり入り口(投資)の件数は増加し続けるのに、出口(投資回収)としてのIPO件数は増加しないわけなので、自ずとIPO以外の出口は増加する流れになり、それはM&Aだということです。
もう少し細かく見ていくと、M&Aが増えている理由は色々あります。
買い手となる大企業側の視点では、資金は潤沢であること、自社のみでの成長が難しく外部に頼る必要があること、ベンチャーとの協業やM&Aがある程度一般的なものになってきたため多くの大企業も取り組みやすい状況になってきたこと、人材不足などの理由があります。
ベンチャー側の視点では、IPOのための審査や監査の難易度や必要金額が年々高まっていること、管理や資金繰りを気にせず事業に集中したいと考える経営者が増えてきていること、早い段階で大きな投資や海外での展開を考えるため大企業との協業を模索する経営者が増えてきていること、などの理由があります。
時代は変わった
ということで、ベンチャーM&Aは増えてますし今後もこの傾向は変わらないはずなのですが、気になる点があります。大手新聞社などの記事で、会社を売却することを「身売り」と表現していることがよくあるのですが、個人的には違和感があります。
「身売り」の意味を検索すると下記の通りで、確かに②はM&Aの意味ですが、一般的には①のイメージが残っておりネガティブな印象の言葉に思えます。
①身代金(みのしろきん)の代償として、約束の年季の間、奉公すること。
②金と引き替えに、施設や組織をそっくり譲渡すること。
この背景には、未だにM&Aで会社や事業を売却することを、「組織を捨てた」や「諦めた」などと解釈する人が一定程度いることが考えられます。これだけM&Aが経営手法として一般化している中で、凝り固まった古い価値観のままでとどまっていることに何一つ良いことはないと思います。
別にM&Aだけを勧めるわけではないですが、IPOもM&Aもそれ以外の手法もフラットに評価して自社にとって望ましい経営判断をすることが大事だと思っています。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
カンリー社執行役員、TOMIOKA C.P.A OFFICEの代表。
M&Aに特化したyoutubeチャンネル「M&A BANK」のMCのほか、ポート社(東証グロース7047)等複数社の社外取締役に就任中。
経歴はKPMG/あずさ監査法人のIPO部、フロンティア・マネジメント社のファイナンシャルアドバイザリー部、オーストラリアに駐在、帰国後にIdeaLink社のCFO、M&A BANK社代表などを歴任。
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