2018.04.09
#14 M&A職人、ベーシック社にみる経営戦略としてのM&A
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
ベーシック、オンデマンドオリジナルグッズ作成サービス「Canvath」をGMOペパボに事業譲渡
Webマーケティングサービスやライフメディア事業を展開する株式会社ベーシック(本社:東京都千代田区、代表取締役:秋山 勝、以下ベーシック)は2018年3月26日、ネットショップオーナーがオリジナルグッズの製作を1つからオンデマンドで発注できるサービス「Canvath(キャンバス)」を、GMOペパボ株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:佐藤 健太郎 以下、GMOペパボ)に譲渡することを決議し、事業譲渡契約を締結したことをお知らせいたします。
・事業譲渡の背景
デザインしたイラストや撮影した写真をアップロードするだけで、スマートフォンアクセサリーやマグカップ、Tシャツなどオリジナルのグッズが製作できる「Canvath」は、従来の最小発注ロット数にとらわれることなく、1つからでも製作発注できることから、クリエイターやネットショップオーナーの注目を集め、利用ユーザー数3万人、月間発注回数1万回を超えるECサービスとして成長してきました。一方で、Webマーケティング市場の拡大に伴い、当社が展開するWebマーケティングメディア「ferret」や中小企業向けのオールインワンマーケティングツール「ferret One」などのWebマーケティングサービスが成長し、第二の事業の柱としてWebマーケティング事業に経営資源を集中することを決意いたしました。
そのため、オリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI(スズリ)」をはじめとする、ハンドメイドマーケット「minne byGMOペパボ(ミンネ)」やネットショップ運営サービス「カラーミーショップ」などクリエイター市場をリードするGMOペパボに、「Canvath」を事業譲渡することが多くのクリエイターに対しての機会提供と今後のさらなる事業成長につながると判断し、このたびの締結となりました。
記事引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000217.000006585.html
しれっと上場会社に事業譲渡
3月26日、ベーシック社はオンデマンドオリジナルグッズ作成サービス「Canvath」をGMOペパボ社に事業譲渡したことを公表しました。正直このニュースはM&A業界でもそんなに大きな話題になっていません(ベーシックの皆さんすいません)。
というよりもあえて積極的に発信していないのかもしれません。買い手のGMOペパポの開示資料を見ると譲渡金額や売上などは「先方(ベーシック)の意向により非公開」とありますしね。
このように謎多きベーシックですが、この会社のM&A戦略についてはM&Aをやるやらないに限らずとても学びが多いと思いますので、その辺りを解説したいと思います。
ベーシックのM&A戦略を推測する
ベーシックはホームページによると比較メディア事業、Webマーケティング事業、EC事業を展開しています。一般的には会社名よりもベーシックが運営するferretというwebメディアの方が知名度があるかもしれませんね。
ベーシックの秋山社長はこれまで多くのM&Aを実行してきたと言っており、事業を買うだけではなく今回のように売却することも多いようです。これはたまたま買ったり売ったりしているだけではなく、戦略としてこのような方法をとっているように思えます。
昨今のビジネス環境では事業のライフサイクルはとんでもなく早く、調子が良いと思っていた事業も、ほんの少しのきっかけですぐに衰退することもあります。逆に突然自社の強みを活かせる機会がやってくることもあります。このような時に自社で全てを対応しようとすれば、すぐに事業が競争力を失う可能性もあるし、ゼロから事業を作っている間に勝機を逃すということが本当に多いです。
この問題の解決策の一つとして、M&Aがあります。事業売却であれば、事業が好調であっても、自社の注力分野から外れている場合などは他社に売却するという方法です。一見なんてことないようですが、この戦略は簡単に取れるものではありません。
通常の経営者であれば利益が出ているうちは手元に置いておきたいと考え、事業が傾いてきた際に慌てて売りたいと思うことが多いです。
売却に限らず買収も含め、ベーシックのように先手先手のM&Aを繰り返すことによって、事業ポートフォリオを入れ替えていくとによって自社にとって競争力のある事業のみを運営していくことが可能になります。
私が全ての経営者にM&Aを経営戦略の一つとして考えるべき、と唱えている理由の一つもここにあります。
なぜベーシックのM&Aは成功率が高いのか
とはいえ、M&Aの半分以上は失敗に終わると言われている中で、ベーシックはなぜM&Aを成功させてきているのでしょうか(事実は知りませんが外から見てると成功しているように見えます)。理由は大きく3つあると思います。
ベーシックのM&Aがうまくいく理由
一つ目は、単純に打数が多いこと。M&Aに限らずどんなことでも最初はうまくいかず、徐々に上達していくものです。これはM&A件数が多いほど成功率が高いということがデータでも出ていました、と言うかコンサル勤め時代に自分で調べたらそーゆー結果になりました。
二つ目は、積極的であることです。M&AはM&A仲介会社に持ち込まれて初めて検討する会社も多いですが、普段からM&A戦略を考え買収候補企業や事業をウォッチしておくことで成功確率が高まります。この点、ベーシックは仲介会社を使っていないと言っており、積極的にM&Aを実行していることが伺えます。
そして三つ目、ベーシックが国内有数のwebマーケティング会社だということ。今の時代、どんな事業・サービスであろうがwebとの接点を持たないということはほとんどなく、いうまでもなく営業戦略上webの重要性は高いです。つまり、極論すればどんな事業であってもwebマーケティングという自社の強みを活かせることになり、通常の会社よりもはるかに買収後に価値を生める事業領域が広いと考えられ、そうであれば当然失敗の可能性は低くなります。
いかがでしたでしょうか。三つ目は難しいとしても、一つ目と二つ目はは経営者の意識次第でどの会社も実行できることだと考えていますので、よかったら参考にしてみてください。
ベーシック社には独自のM&A戦略と私の妄想の答え合わせをいつかぜひ聞きにいきたいと思います!
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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