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#69 みずほのサクラダファミリアとIBM | M&A BANK

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2020.06.04

#69 みずほのサグラダファミリアとIBM

冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

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サグラダファミリア

「IT業界のサグラダファミリア」
誰が言い出したのかは知りませんが、IT業界では有名な皮肉です。
みずほフィナンシャルグループのシステム刷新プロジェクトを指し、完成が伸びに伸び大規模トラブルを繰り返し、一向に完成しない様からこのように名付けられました。
そして、約20年の時を経て、2019年にようやく完成しました。システム開発費は約4,000億円を越えたそうです。

そんなみずほFGですが、6/2にこんなリリースを出しています。個人的には驚きました。

みずほ、システム運用を外部化 日本IBMが65%出資

みずほFGは、システム運用を担う子会社みずほオペレーションサービスの発行済み株式65%を6月末までに日本IBMへ売却し、両社は2日にも合弁契約を結みます。
これにより基幹システムを外部との運用に切り替え、みずほオペレーションサービスはみずほFGの持分法適用会社となります。

 

みずほの反省

金融機関にとって基幹システムは生命線で、今後も大きな投資が必要になっていく領域です。
しかし同じ過ちは二度と繰り返すわけにはいかないため、これまで自前主義で頑張ってきたみずほFGですが、ついに方針転換を決意したようです。
もちろんこれまでも外注による開発を行ってきたでしょうが、システム運用会社を外に出すことは象徴的です。

ここまで大規模なものでなくても、一般的にシステム開発プロジェクトは炎上しがちです。
理由はリーダーシップ不在、不明瞭な目的や設計など様々ですが、納期が遅れる、予算が膨れる、などは本当によく聞く話です。
ただ、構造上受注者からすれば適正報酬が払われている限りプロジェクトがどんなに延びようが費用が膨らもうが問題はないわけです。

この解決策の一つが、発注者と受注者が「同じ船に乗る」ということです。
「言われた通り仕事をする」、から、「成功させるために仕事をする」、という形に変えるということです。
この手のことを書くといつも「自分たちはプロとして、言われた通りやるだけでなく発注者のために仕事をしている!」と一部から指摘が入ります。
そういう方がいることは承知してますが、構造上こういう問題が起こりやすいですよ、ということを言っています。

そして今回、同じ船への乗り方が、日本IBMへのみずほFGのシステム子会社株式65%譲渡という形になりました。
この比率にも意味があり、過半数を渡しているので経営の主導権は日本IBMに渡しているということです。これは自前主義のみずほFGにとっては英断だと思います。

 

IBMにとっての意味

日本IBMにとっても、大きな意味があります。
日本IBMの金融機関のシステム開発及び運用事業は、主に地銀をターゲットとしてNTTデータなどと激しいシェア争いをしています。
そして金融機関の数には限りがある、つまりパイが限られている中で、大手を抑えられたのは大きいです。
さらに基幹システム案件はスイッチングコストが高く、一度受注してしまえばそう簡単にはひっくりかえらないため、中長期の安定をもたらします。

本質的には基幹システムさえも全てクラウド上で完結できる日もそう遠くないと言われており、その観点からはアマゾンやマイクロソフトなども日本IBMの脅威になります。
そんな中、自社で大手金融機関の運用会社の過半数を取得するということであれば、スイッチングコストをより高める施策になり、競合他社への対抗策を用意する時間稼ぎになります。

合弁会社の新規設立とは異なる合弁事業

規模や業種は違えど、今回のスキームは参考になるところは多いです。
合弁というと、何もないところから他社と合弁会社を作るパターンが想像しやすいです。
しかし、今回のように既存子会社や事業を切り出して共同運営するパターンもあります。
そして持ち株比率も、お互いの役割、資金、リスク許容度などを加味して柔軟に設計することが可能です。

既存事業を変革するために一緒にやっていきたいパートナー企業がある、しかし単なる発注者と受注者という関係ではなく、同じ船に乗って事業を進めていきたいという時には検討する価値ありです。

 

 

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冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。

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