事業譲渡は、会社の事業の一部を他の会社に売買するM&Aの手法のひとつです。中小企業のM&Aでよく活用されています。
譲渡対象にできるのは、店舗や工場といった土地建物などの有形固定資産、売掛金・在庫などの流動資産があるほか、営業権 (のれん) や人材、ノウハウといった無形資産なども含まれます。
成約すれば売り手側の企業は現金を得られるというメリットがある一方、資産や負債の移転が発生するため、さまざまな税金もかかります。
今回は、事業譲渡における税金について解説していきます。
事業譲渡にかかる税金
事業譲渡で売り手側企業にかかる税金は、消費税と法人税の2つです。
まず、譲渡によって得た利益に対して法人税が課税されます。
消費税は売却した金額の全てに課税されるわけではなく、売却した資産を「課税資産」と「非課税資産」とに分けた上で、消費税は課税資産と認められるものにのみ課税されます。
では、譲渡資産のうち課税資産にあたるもの、非課税資産にあたるものとは何でしょうか?
課税資産
事業譲渡によって消費税が課税される資産です。具体的には次のようなものが該当します。
・土地以外の有形固定資産
・無形固定資産
・棚卸資産
土地以外の有形固定資産
有形固定資産には、一般的に次のようなものが挙げられます。
建物 | 事務所、店舗、倉庫、工場など |
土地 | 店舗や事務所などの敷地、営業活動に使用する土地など ※土地は課税資産には含まれないため、消費税の計算の際に除外されます。 |
機械装置 | 製造や建設で使用する機械や装置など |
車両(車両運搬具) | 自動車、トラック、フォークリフトなど |
船舶 | 客船、貨物船、飛行機、ヘリコプターなど |
工具、器具および備品 | 作業用工具、測定装置、事務机、パソコン、コピー機など |
無形固定資産
無形固定資産はその名のとおり形のない資産で、将来にわたって利益を生む経済的価値(資産)のことを指します。
具体的には次のようなものが無形固定資産に該当します。
・特許権
・のれん代(営業権)
・漁業権
・意匠権
・商標権
・ソフトウェア
このうち、決算書上は営業権という勘定科目で表されるのれん代は、会社のノウハウやブランド、顧客の取引関係などを指します。のれん代を明確に決める方法はありませんが、営業キャッシュフローの3~5年分をのれん代とすることが多いです。
のれん代は業種によって掛ける年数が異なり、一般的に、飲食店など流行り廃りの激しい業種は2~3年と短く、手堅い業種では5年とされています。
棚卸資産
一般的に「在庫」と呼ばれる、企業が販売や加工目的で保有する商品や原材料、仕掛品のことを指します。
非課税資産
事業譲渡によって売却した資産のうち、次のものには消費税が課税されません。
土地:有形固定資産のなかでも、土地だけは消費税の課税対象となりません。
有価証券:株式や債券、手形、小切手など
債権:売掛金など
消費税の算出方法
課税資産と非課税資産の具体例についてはご理解いただけたでしょうか?
ここでは、実際の事業譲渡を想定し、どのようにして消費税を算出するのか見ていきましょう(消費税は8%で計算します)。
(例)売却価格:2億円
(内訳)建物:5,000万円、のれん代:3,000万円、土地:1億円、債権:2,000万円
この例の場合、消費税はいくらになるでしょうか?
消費税の課税対象となる課税資産は、建物、のれん代で、非課税対象となる非課税資産は、土地と債権です。したがって課税資産の合計額は5,000万円+3,000万円=8,000万円となり、これに消費税率8%を掛けると、消費税額は640万円となります。
(5,000万円+3,000万円)×8%
=8,000万円×8%
=640万円(消費税額)
事業譲渡に係る消費税に関する注意点
営業利益が大きかったり、独自のノウハウやブランド力を持っていたりする中小企業は、のれん代に課税される消費税が大きくなる傾向にあります。
そのため、事業譲渡で多額の現金を得るつもりが、のれん代に課税される消費税で手元に残る現金が大幅に減ってしまうことも起こりえます。
のれん代が大きくなりそうな場合は、株式譲渡など別のM&Aの手法を検討しましょう。
さらに、企業が販売や加工目的で保有する商品や原材料、仕掛品などの棚卸資産は、価格が日々変動します。
事業譲渡は6ヶ月から1年程度かかることが多いため、その間に棚卸資産の価格も変動し、最終的に支払う消費税額も変動します。
在庫を多く抱えている企業ほど影響が大きくなるため注意は必要です。
おわりに
事業譲渡にかかる消費税の課税対象、計算方法についてご理解いただけたでしょうか?
M&Aの手法によって、譲渡する資産によってかかる税金はさまざまです。場合によっては会社分割のように消費税のかからない手法が事業譲渡よりもベターな選択である場合もありますので、会社にとって最適なM&Aの方法は何かをしっかり検討しましょう。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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