起業家が会社を興す目的のひとつに、イグジット(投資回収)で利益を得ることが挙げられます。
イグジット戦略には主にIPO(新規株式上場)によるものと、M&Aによるものがあります。
今回はそれぞれのメリットと注意点を比較していきましょう。
IPOとM&Aの仕組みを知っておこう
起業家はまず株式を発行して出資を受け、資本金を得ることになります。これを元手に設備投資などを行って会社経営をしていきます。
この株式は起業家自身と、出資した株主のみが保有する未公開株となります。
それを証券取引所に上場して、一般の投資家が購入できように新規株式を発行するのがIPOです。公募価格は主幹事となる証券会社が決めますが、多くのケースでは創業時に設定した株価よりも高くなります。
つまり、IPOで株式を公開することで、起業家が保有する株式の時価総額は大きく上昇することになるのです。
ただし、この段階で創業者が持ち株を一気に売却して利益を得ることはできません。
一方でM&Aによる売却を行う場合、会社を他の会社に売却して現金を得ることになります。起業家は会社を手放すため、M&A後は会社の収益から利益を得ることができなくなるのが基本です。
IPOによるイグジット戦略のメリットと注意点
アメリカでは起業家のうち、IPOを目指すのはわずか1割ほどと言われますが、日本の起業家はIPOを目指すのが主流です。
自分が興した会社を大きくしたいという気持ちの表れとも考えられるほかにも、投資ファンドやベンチャーキャピタルからの出資を受けている場合は、それらの出資者がIPOによる投資資金の回収を望んでいることもIPOの後押しになります。
いずれにしても、保有している株価が大きく上昇することにより、一瞬にして資産家になる夢を見られるのがIPOのメリットといえるでしょう。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏がIPOで1兆円以上の資産を得たことは有名ですし、日本ではコロプラの社長である馬場功淳氏が、2008年に立ち上げた会社を2012年に上場したことで2000億円を超える資産を保有することになりました。
ただしこれはあくまでも、保有する株式の時価総額が増えたという話です。現金を手に入れるためには、株式を売却しなければなりません。
では、IPOでイグジットを目指す場合に注意すべきことは何でしょうか。
まず創業オーナーとして多くの持ち株を持っている場合、先述のとおり、上場後にそれほど多く売却することはできません。これには証券会社で公開している目論見書が関係しています。
そこには創業者や出資者などの大株主が株式を売却することを規制するロックアップという項目があります。これは、株式が大量に売却されて株価が下落し、購入した一般の株主が損失を受ける事態を防ぐことを目的としています。
また、創業者である起業家自身が持ち株を売るということに対して、市場は敏感に反応し、大きな売り材料として作用することになります。
そのため、IPOによるイグジットは極めて慎重に行う必要があるのです。
M&Aによる売却のメリットと注意点
M&Aにより株を売却する場合、すぐに現金が手に入るのが最も大きなメリットです。
アメリカではM&Aで得たお金を元に、新たな事業を立ち上げる起業家も多くいます。これを繰り返すことで次第に資産を増やしていくのです。ひとつの会社を長く経営するわけではないので、経営環境の変化により経営不振へと転落するリスクも少なくなります。
なお、M&Aでイグジット戦略を考える場合、まず会社の経営状態を良好にしなければなりません。そして、企業価値が高いときに、できる限り高値で売却することが重要です。
そのためには会社を立ち上げたときに、どのくらいの期間で売却するのか計画を練ることが大事であり、そこから逆算して経営戦略を立てることになります。
また、従業員の処遇についても配慮が必要です。それまで尽力してくれた従業員とその家族を売却後も守ることは、M&Aにおける最優先事項になるでしょう。
おわりに
実際のところ、IPOとM&Aのどちらを選べばいいのでしょうか。
長く会社を経営して資産を増やしたいのであればIPOでしょう。ただし上場後には上昇した株価に相応しい収益を生み出すための経営努力が問われます。また資産を大きく増やせても、現金をすぐに手にできるわけではないことにも注意が必要です。
逆にすぐ現金が欲しいのであれば、M&Aによる売却をおすすめします。ただし売却相手によって売却金額が変わるので、どのような企業を選ぶのかがポイントです。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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