M&Aによる企業買収や投資をするにあたって、買収する側・投資する側が相手企業に社長や社外取締役を派遣し、経営に積極的に関わるかどうかにスタンスの違いが現れます。
このスタンスの違いをハンズオン、あるいはハンズオフといい、投資や買収する側の企業と相手企業との相性、事業分野に対する見識、経営統合のスピード感など、状況によって使い分けが必要です。
ここでは、ハンズオンの意味やメリット・デメリットについて解説します。
ハンズオン・ハンズオフとは
「hands on(実践)」から転じて、投資ファンドなどの出資者が投資先の企業の経営の主導権を握り、積極的にかかわる投資手法のことを指します。
出資企業から投資先の企業に担当者を派遣する、社外取締役に就任させるなどして経営に関わり、事業育成・再生を一緒に成し遂げます。
具体的には、ミーティングをこまめに開いたり、一緒に営業先を回ったりして、投資先の事業が成長するために必要なことを文字通り「実践」します。
典型的な例として、ベンチャーキャピタルのように破綻寸前の企業を買収して業績を回復させ、企業価値を高めてから投資を回収する出資者が、ハンズオンのスタイルを用いることがあります。
また、中小企業やベンチャー企業に株式公開・新規事業・経営革新などに挑戦する意欲はあっても、アイデアや構想を具現化する専門知識・経験を持っていない場合には、専門家をプロジェクトマネージャーやアドバイザーとして参画させ、実践的な支援を行うこともあります。
一方、出資者が投資先の企業の経営にかかわらないスタイルを「ハンズオフ」といい、こちらは出資者が「報告だけ聞く」「何かあったら相談してほしい」というスタンスです。
主に出資者が自社の事業と、買収先の事業をすぐに統合する必要がないときに用いられます。
ハンズオンのメリット
出資者にとってのハンズオンの最大のメリットは、投資先の経営をスピーディーに変革できることです。
投資先の企業の経営状況が悪い場合は、経営責任者を送り込んで早々に体質改善を図るほうが、事業育成・再生も早く達成されます。
そのため、とくにスピーディーに利益を出して投資を回収したい再生ファンドでは、ハンズオンの投資手法が好まれます。
ハンズオンのデメリット
投資を受ける企業にとっては、ハンズオンによって出資企業(別会社)から送り込まれてきた経営責任者と自社の社員との間で経営に関するイデオロギーの対立が起こる可能性があります。
たとえば、新しい経営責任者が事業の専門分野に明るくない場合や、何の代替案も提示しない場合は、対立が表面化するばかりでなく、ハンズオンの最大のメリットであるスピーディーな変革が実現できないこともあり得ます。
そのため、ハンズオンによる企業変革を早期に実現するためには、経営責任者が明確な経営の方向性や目標を定め、投資先企業の社員と共有するとともに、社内での行動基準を確立しておくことが必要です。
ハンズオンを成功させるためには
ハンズオンを成功させるためには、出資する側が投資先の企業について、次の2つのポイントに気をつけましょう。
1.事業の到達点がはっきりとしていること
ハンズオンの目標が明確でなければ、事業の育成や再生も、株式公開や新規事業も上手くいかず、投資先の社員との対立が起こってしまいます。
経営責任者として舵取りを任されたのであれば、明確な目標を示し、改善方針を浸透させて社員の理解を得ておくことが重要です。
2.ビジネスパートナーとして事業に関わっていくこと
投資家から出資を受けている企業の経営者の立場・関係は、意外とセンシティブな問題をはらんでいます。どうしても経営者の立場は、出資を受けているということで相対的に弱くなってしまうからです。
出資を受ける企業の経営者は、新規事業の開拓や販路の確立、事業の再生などさまざまな場面で困難に直面します。
そのようなときに指示だけして責任を追及するのではなく、ビジネスパートナーとして経営者の良き相談相手となれば、スムーズな経営改善を実現することができるでしょう。
最後に
出資する側が事業経験や事業の勘所をわかっていれば、ハンズオンの方針での事業育成や再生、新規事業の開拓をスピーディーに実現し、企業価値を高めることができます。
ただし、投資先の企業の経営に積極的に関わるため、社員との間で摩擦が生じるリスクもあります。社員との摩擦を回避するために、投資先の企業に明確な目標と行動基準を提示し、社員に浸透させておくようにしましょう。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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