事業譲渡の際には、譲渡希望価額と譲受希望価額に基づいて、譲渡にかかる金額である「最終価額」を決めることになります。
一方、そもそも譲渡希望価額と譲受希望価額は何が違うのか、ご存知ない方もいるのではないでしょうか。事業譲渡の基本的な知識になるので、この機会に違いを確認しておきましょう。また、最終価額を決めるために、どのようなことを考慮する必要があるのかも確認しておきましょう。
ここでは、譲渡希望価額と譲受希望価額の違いや最終価額の決め方などについてご紹介します。
そもそも事業譲渡とは
そもそも事業譲渡と株式譲渡の違いをご存じない方もいるのではないでしょうか。事業譲渡と株式譲渡は似ていますが、明確な違いがあります。
株式譲渡は、株式を売買することで、その会社を経営する権利を移動させます。つまり、会社を丸ごと買い取るということです。それに対して事業譲渡は、会社の一部である事業部門を買い取ります。会社のどの資産を買い取るか細かく決めることができるため、負債まで引き継がずに済むのです。
事業譲渡するケースとしては、事業を売却したい法人内で複数の事業を行っているため、株式譲渡ができない場合が挙げられます。複数の事業を行っており、その中でも成長性が高い事業に集中したい場合、売却を選択することになります。株式譲渡では会社全体を売却することになってしまうため、必然的に事業譲渡を選択することになるのです。
譲渡希望価額とは
譲渡売却希望価額とは、譲受する会社に支払いを希望する金額のことを指します。つまり、事業を買い取る際にいくらで買い取ってほしいかということです。事業の譲渡によって得る対価は、事業の成長性や生み出す利益などによって決めることになります。
しかし、譲渡する側としては事業に対する思い入れや愛着心などが強いため、その事業が生み出す利益などから評価した理論的価値を大きく上回る譲渡希望価額を提示することが一般的です。
譲受希望価額とは
事業譲渡を受ける側としては、できるだけ安く買い取りたいと考えることが一般的ですが、実際はもっと価値が高い可能性もあります。新事業によって企業価値が向上することが見込まれる場合には、それだけ譲受希望価額が高くなるでしょう。
譲受希望価額を決めるうえでの注意点は、事業譲渡のリスクを考慮することです。事業譲渡のリスクとしては、顧客や社員を全て引き継げるとは限らないことが挙げられます。
譲渡される側は、新たに社員や顧客と契約しなおすことになるため、再契約を拒否される可能性があるのです。新事業をそのまま引き継げることを想定して譲受希望価額を算定すると、買い取ってから思っていたよりも利益が出ないということになるでしょう。
最終価額の決め方
譲渡する側としては高く売りたい、譲渡される側は安く買い取りたいという考え方の相違があるため、最終価額が決まるまでに時間がかかってしまいます。
最終価額を決めるためには、双方の歩み寄りが必要です。譲渡を受ける側としては、理論的価値が適当かどうかを今一度考えた方がよいでしょう。新事業を始めることで、より大きな利益を生み出せるようになることがわかれば、理論的価値が高まります。
そして、譲渡する側としては、思い入れや愛着心による譲渡希望価額の引き上げについて見直し、双方が納得できる妥協点を模索する姿勢が必要です。また、事業譲渡のメリットやデメリット、リスクなども考慮しましょう。
税金も考慮すべき
事業譲渡には税金がかかるので、最終価額を決定するうえで考慮した方がよいでしょう。事業を譲渡する側には、29~42%の法人税がかかります。これは、譲渡によって得た収益は譲渡する側の企業の法人所得になるためです。
株式譲渡における株主が負担する税率は20%となっているので、事業譲渡は税金の面で株式譲渡に劣ると考えられます。ただし、繰越欠損金の保有や役員退職慰労金による所得の圧縮などによって税金を抑えることは可能です。
譲り受ける側は、固定資産を譲り受ける場合、不動産取得税や登録免許税など様々な税金の負担が必要になります。営業権の買い取り金額に相当する税金については、5年間で均等償却して算定上損金に算入できるため、株式譲渡と比べて節税効果が高いと言えるでしょう。
おわりに
事業譲渡において、譲渡希望価額と譲受希望価額から最終価額を決めるのは、とても大変なことです。双方ともに歩み寄り、お互いに納得できる最終価額を算定することが大切です。
事業譲渡によって新事業を始めることができれば、現在の事業の収益が上がる場合もあります。あらゆる項目を考慮して、正しい理論的価値を評価しましょう。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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