2020.06.19
M&A(売却)の進め方:全プロセスと個別相対方式/入札方式ーざっくりつかむM&A②
この記事は、
「いつかM&Aイグジット(売却)をするかもしれない」
「とりあえず最低限のことだけ知りたい」
「M&Aの全容をざっくり把握しておきたい」
という方に向けてお届けする全5回の連載の第2回です。
▼予定コンテンツ▼
1. 売却するタイミングの決め方
2. M&Aの進め方:全プロセスと個別相対方式/入札方式
3. 売り方:売却スキームの選び方
4. 売却戦略の立て方:セルサイドDD
5. 価格の決め方:プロジェクション(事業計画)と企業価値評価
「そもそもM&Aをするべきなのかわからない」
「M&Aのメリットや特徴を知りたい」という方は、
まずはこちらの記事をご覧ください。
……『すべての経営者が知っておくべきM&Aのメリット』
……『経営者の“キャリア最適化”の手段にもなるM&A』
M&Aのプロセスがややこしい理由
極端に言ってしまえば、M&Aのプロセスは
相手(買い手/売り手)が見つかって、条件交渉がまとまって、
取引が完了すれば終わりのはずです。
条件にはこだわらず、とにかく早く売れればいいなら
上記のような3段階の認識でもいいかもしれません。
しかし、M&Aイグジット(売却)の流れを調べてみると
少なくとも5段階以上、10段階近くの工程に分けて
説明されていることがほとんどです。
よりよい条件での取引を目指すのであれば、
やったほうがいいことがそれだけ増えるということです。
どんなステップが、どんな目的で追加されているかがわかれば
長いプロセスも頭に入りやすくなります。
交渉を優位に進めるためにやるべきこと
売り手が交渉を優位に進めるためには、
- 交渉に向けたロジックの準備
- より多くの買い手候補
- 本気度が低い買い手候補をはじく工夫
が必要になります。
これらがステップに落とし込まれていると、M&Aのプロセスが長くなるのです。
それぞれが必要とされる理由と、具体的な工程をご紹介します。
1.交渉に向けたロジックの準備
基本的に、買い手は安く買えたほうが嬉しいはずなので
予算や欠点を理由に安めの値段を提示してくる可能性があります。
それを押し返してそれなりの額で買収されるためには、
売り手がその根拠を自ら示して、価値をアピールする必要があります。
そのために、対象事業の現状、特に強みや課題を把握・整理し
交渉の下準備をする以下のステップが、買い手との交渉前に必要になります。
【現状把握フェーズ】
・売却対象事業の調査(セルサイドDD)※
・簡易的な企業価値評価 ※
【作戦フェーズ】
・望ましい買い手イメージや条件・売却スキームの検討
【交渉準備フェーズ】
・資料作成:事業計画(プロジェクション)・詳細説明資料(IM)
※のステップについては、別途記事を執筆予定です
ここでの目標は、
- アピールポイントとその根拠を明確に示せるようにすること
- 弱点を自覚し、潰す・改善するなどの手を打てるようにすること
- 望ましい条件や手法を自分から提示できるようになること
です。
説明によってはこのステップが省略されている場合もありますが、
その後の交渉を左右する、かなり重要な部分です。
2.より多くの買い手候補
買い手から「ぜひ御社が欲しい」と指名されている場合と違い、
自ら買い手を探している場合は売り手の立場が弱くなりがちです。
特に、早く売りたい状況で、買い手候補が1社しかなければ
不利な条件を出されても飲まざるを得なくなってしまいます。
「御社以外にも評価してくれている会社がいるので」と言えるように、
マッチ度の高い買い手候補をより多く見つけ、
それぞれとのやり取りのタイミングを調整しましょう。
そのような目的で、たとえば以下のようなステップが追加されます。
- 売却戦略を立てる:個別相対/入札 ※本記事後半で解説
- 買い手候補の選定
特に、買収を本格的に検討しようと決めた買い手は
‟独占交渉権”の付与を求める場合があります。
「調査の費用や労力をかけて本格的に検討するので、
以降は他の会社との交渉をやめてほしい」というものです。
特定の会社との独占交渉に入る前に
他に魅力的な買い手がいないか少しでも多く確認したいのであれば、
買い手候補への打診はできるだけ一気に同時並行で進めましょう。
3.本気度が低い買い手候補をはじく工夫
M&Aの交渉の際、買い手は対象会社の価値とリスクを把握するために
売り手に対して多くの情報の開示を求めますが、
中には交渉決裂後に対象事業と似た事業を自社で始める企業もいます。
帳簿や契約書、議事録まで開示することもあるM&A交渉では、
重要な情報の用途以外での使用や漏洩を防いだり、
相手の本気度を確認できる策を打ったほうが安心です。
こういった観点から加えられるのが、以下のような工程です。
【情報の取り扱いを定める】
・機密保持契約(NDA)の締結
【希望や認識の確認・すり合わせ】
・意向表明書(LOI):買い手側からの条件提示
・基本合意書の締結
基本合意書は、買い手が独占交渉権や善管注意義務について
売り手との合意を明文化するために締結することが多いもので、
省略される場合もあります。
売り手はさらに情報開示をする前に、意向表明や基本合意の段階で
どのように評価されているか、どのくらい具体的に検討されているかを確認しましょう。
特に、価格についてはその根拠を詳しく示してもらえるよう、
フォーマットを整えたドラフトを売り手側が用意するという工夫もできます。
この3点をふまえて、M&Aのプロセスは以下のような流れになるのです。
- 売却意思決定、専門家への相談開始
- 売却対象事業の調査、簡易的な企業価値評価、売却スキーム決め
- 売却戦略を立てる
- 資料作成、買い手候補決め
- 買い手候補へのアプローチ開始、NDA締結、面談、買い手の初期的調査(DD)
- 買い手からの条件提示(LOI)
- 買い手による詳細調査(DD)、質問対応
- 買い手からの最終条件提示
- 最終交渉、取締役会承認、最終契約書の締結
- 株式譲渡取引(クロージング)
案件によって状況は様々なので、必要に応じてカットする場合もありますが、
大まかには上記のような流れを把握しておきましょう。
それぞれの目的がわかれば、長い工程も覚えやすいのではないでしょうか。
売却戦略:個別相対方式か、入札(オークション)方式か
2.でも触れた通り、買い手との交渉の進め方は重要で
できれば行きあたりばったりではなく、
適切なやり方を検討してから取り組みたいところです。
売却戦略は、買い手の数で大きく3つに分けられます。
A 1対1:個別相対方式
B 1対少数:リミテッド・オークション方式
C 1対多数:フル・オークション方式
Aは特定の候補と深く議論する形を取るため、
- 売却検討中であるという情報が出回りにくい
- スピーディーかつ低コストで進められる可能性が高くなる
といったメリットがあります。
きちんと説明しないと魅力や可能性が伝わりにくい案件にも
適した進め方です。
Cは入札日・方法・条件・スケジュールを定めて買収希望者を募る形をとるため、
- 売り手に有利な条件で交渉を進めやすい
- 予期せぬ買い手候補が現れる可能性がある
といったメリットがあります。
興味を持つ相手が複数いることがわかっていて、
よりよい条件での売却に向けて時間をかけられる場合に適していますが、
進行を取り仕切るスキルと労力が必要な方法でもあります。
それらの中間にあたるのがBで、
限定した複数の候補から入札期限までに価格提示をしてもらう形になります。
‟入札日”といったプロセスをかっちり設けなくても、複数の買い手候補に打診し
「1社が○日には決めると言ってくれている」と伝えるなどして
実質的にリミテッド・オークション方式で話を進めることもできるでしょう。
売却対象事業の状況やかけられる時間・コストから
適切な戦略を検討してみてください。
以上、「M&A(売却)の進め方」でした。
全プロセスと個別相対方式/入札方式の違いについて、ご理解いただけましたでしょうか。
ご参考になりましたら幸いです。
本記事の参考文献
本記事は以下の文献を参考に書かれています。
詳細をお知りになりたい方はこちらをご参照ください。
宮﨑淳平(2018)『会社売却とバイアウト実務のすべて』日本実業出版社
※売り手に支援に特化したアドバイザリーであり、M&A BANK顧問でもある宮﨑さんの著書
“非上場会社の売却”に関わる人向けの書籍。
専門家ではない人にもわかりやすく書かれています。
特に、第二部の物語形式で書かれたM&Aイグジット事例を読むと
M&Aの一連の流れがイメージできるようになるのでおすすめです。
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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