ソニーミュージック、Spotify株7億ドル分を売却しアーティストとレーベルに全額還元
ソニーミュージック・エンタテインメントは、保有していたSpotify株7億6100万ドル(約840億円)相当を売却して得た資金全額を、アーティストやレーベルに還元します。ソニーミュージックは4月に保有していたSpotify株5.71%の約半分を売却していました。
支払いの対象には、約10万のアーティスト、約200万曲のカタログが含まれ、個別の契約内容に関係なく資格のある全てのアーティストとレーベルが含まれます。レーベルに送られたメールでソニーミュージックは「私たちの音楽クリエイターに対する配慮と捉えてもらえることを期待しています」と述べています。
支払いの分配方法は、ソニーミュージックが株式を保有していた時期のSpotifyの売上高とソニーミュージックの売上高から計算するとしていますが、詳細は該当するレーベルへのメールで送っている模様です。……
回収した資金のまさかの使い途
「金に目がくらんだのでしょう」。
M&AによりEXITした経営者に対してこのような感想を抱く人は少なくない気がしています。多分に嫉妬が含まれているとは思いますが、本心なのでしょう。
4月4日、ソニーミュージック社は保有していたSpotify株の一部を売却したと発表しました。
投資したベンチャーが上場し、保有する株式を売却することで利益を得る。これだけならばごく一般的な話でなんということはないのですが、この話には続きがあります。
7月1日、ソニーミュージックが保有していたSpotify株7億6100万ドル(約840億円)相当を売却して得た資金全額を、ソニーミュージックのアーティストやレーベルに還元すると発表したのです。
記事には「私たちの音楽クリエイターに対する配慮と捉えてもらえることを期待しています」とのコメントがあり、契約等で事前に決まっていたようなものではなく、純粋にアーティスト達への感謝の気持ちからこのような決断を下したのでしょう。
M&Aでもこのようなことはある
私が以前支援していたある教育系の事業を行う会社が数年前にM&Aにより会社を売却しました。
そしてその売却資金により、実際に授業を行っていた講師の方々に臨時ボーナスを支払ったり、発展途上国に学校を建設したりしています。
また、このM&A BANKを運営しているIdeaLink社は、2017年12月にM&Aにより会社を売却していますが、売却代金の一部(かなりの金額)を事業売却特別賞与という形で従業員に還元しています。
単なる綺麗ごとではない
このように、M&Aにより会社や事業を売却するという判断を下す経営者は、必ずしも自分だけが儲かればいいと考えているわけではありません(そういう人もいますが)。
ただし、単なる寄付のようなものかといえばそれも少し違う気がしています。
ソニーミュージックのケースでいえば、アーティストが楽曲を生み出すことで初めて会社としてビジネスを行い利益を出せるため、アーティストが活動できるよう支援することや会社に対してロイヤリティを持ってもらうことは重要なポイントです。
Idealink社のケースでも、結果を出せばその分自分たちへの報酬(金だけでなく成功体験という意味を含む)となって返ってくるということを体感してもらうことで、より成長意欲を持ってもらいたいという思いもあります。
このように会社を取り巻く人たちに利益を還元することは、彼らに対する感謝の気持ちを表すだけでなくビジネス上の観点でも有益だと考えられます。
そしてM&Aはこのような施策を行う一つのきっかけになりますので、会社や事業を売却する際は一度検討してみるのも面白いと思います。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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