2019.06.03
#64 セブン・ドリーマーズの倒産から考える「仕組み」の重要性
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
調達100億円、夢の終わり セブン・ドリーマーズ破綻
自動で衣類を折り畳む家電を開発していた注目のスタートアップ企業が4月に経営破綻した。斬新なアイデアで総額100億円超の資金を集めたが、開発が難航し行き詰まった。新興企業に浮沈はつきものだが、今回の破綻には日本のスタートアップに共通の課題もみえる。ここ数年の新興ブームは真価を問われる局面を迎えた。……
引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45142750S9A520C1TJ3000/
「ナイスチャレンジ」から得られる学び
自動衣類折り畳み機「ランドロイド」で知られるセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズが倒産しました。
まず言いたいのは、「ナイスチャレンジ」。
破綻した今過去をほじくり返せば色々問題点は指摘できるのでしょうが、考えついたとしても誰もやらないようなものに挑戦したことはシンプルにすごいなと思います。
何が難しかったか
挑戦者を安全地帯から批判することはあまり好きではありません。ですが、どのようにすればよかったかを考えることは今後役に立ちそうです。
「スタートアップがハードウェア開発を成功させること」というそもそも論な点が一番大きいと考えています。
ハードウェアが難しい理由は製品を実現する技術的な要素、開発が長期に及ぶこと、莫大な資金がかかることなど色々です。
特に「プロトタイプの発売までにかかる金額の大きさ」が致命傷になりやすいです。プロトタイプの反応をみて、良ければその方向で進むし、そうでなければ修正や場合によっては方針転換して違うものを作るということはありえます。
しかし、プロトタイプを作るだけで投資家から数十億単位で資金を集め投資してしまうと、もはや方向転換は難しくなってしまいます。
どうすればよかったか
結論が「ハードウェアは難しいから違う領域で勝負すべき」ではなんだか寂しいので、どうすればいいのか考えてみます。もちろんこれをやったら倒産しなかったというような単純なことはありませんが、少しでも今後の参考になればという趣旨です。
やはり資金的な問題は大きく、長期戦を覚悟した「仕組み」を用意することが何よりも重要という結論です。
①キャッシュカウ(金のなる木)を作る
自動衣類折り畳み機の実現は素人目にも時間がかかることは明らかで、それまでは別事業のゴルフシャフト事業などを拡大して資金を稼ぎ、それを折り畳み機の開発に投資する。
ミドリムシを用いた製品を開発しているユーグレナは、「ミドリムシを活用したバイオ燃料でジェット機を飛ばす」と壮大な目標を掲げていますが、足元ではサプリメントなどで収益をあげて資金を稼いでいます。
②最初から欲張らない
上記のとおり、ニーズがあるかわからないプロトタイプを作るだけでも多額の資金がかかるため、まずは必要最低限の機能を目指して投資額を最小化する。
具体的には、ユニクロの「エアリズム」のようなすべすべした衣服がたためないから発売延期したとの報道がありましたが、一部折りたためない服があっても無視して(もちろんその旨事前に説明する)発売するなどです。
③事業ごとにハコを分ける
事業ごとに開発期間、技術、難易度、必要資金などが大きく異なる場合、初めから法人を分ける方法があります。比較的短期に結果が見える事業は単独で法人運営を行い、単独では難しい事業は大企業との合弁会社を作るなどです(セブン・ドリーマーズも途中からはパナソニック等と合弁会社を作っていましたが、最初からやらないと歪になりやすいです)。
④大企業の傘下に入る
これは③にも関連しますが、大企業の子会社や一部門としてじっくり研究開発を行う方法があります。資金集めなどの心配が減り、研究に専念しやすいです。一方、社内調整の増加やプロトタイプの発売が難しくなる(クオリティが低いものを発売すると会社全体の信用問題に関わるため)ということはあります。
⑤経験豊富なVCに参画してもらう
資金調達をする際は事業シナジーのありそうな事業会社から調達することが基本はいいと思っています。今回ではパナソニックやダイワハウスですね。
一方で、EXIT経験豊富なVCに出資したもらうことが望ましい場合もあり、本件はそれに該当しそうです。
ハードウェア系のスタートアップということで、VCも技術畑の陣営になりがちですが、やはりビジネスとして成り立たないと話にならないわけで、多くの投資先をEXITに導いているVCが主導するのが望ましい場合があります。
具体的には、セブン・ドリーマーズは放漫経営だったというような報道もありますが、もしそうだとしても堅実経営にするよう納得してもらうこともVCに期待できるはずです。
本件は金額が大きいため当然投資家も多数になり、この役割を担う投資家はいなかったのかもしれません。
ということで好き勝手書きましたが、ワクワクするようなハードウェアを作るスタートアップが登場し、成功することを全力で応援しています。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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