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2018.05.01

#18 スタートトゥデイによるZOZOSUIT開発企業M&Aの結末

冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

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スタートトゥデイ、“ZOZOSUIT”生産失敗で約40億円の損失を計上

スタートトゥデイは2018年3月期に、体形採寸用ボディースーツ“ZOZOSUIT”の生産失敗で約40億円の特別損失を計上する。内訳は、ボディースーツの製造委託先で出資先でもあるニュージーランドのストレッチセンスの株式評価損が18億4800万円、“ZOZOSUIT”生産のために行っていた設備投資の減損処理に14億8600万円、ストレッチセンス社に支払い済みの前渡し金評価損が6億6300万円。

スタートトゥデイは、2000万ドル(約21億4000万円)を投じて、100%子会社化する予定だったストレッチセンスとのコールオプション契約の締結も中止。スタートトゥデイ研究所で自社開発した新たな“ZOZOSUIT”を使うことを発表した。

無料で手に入れられる“ZOZOSUIT”は昨年10月末に発表すると大きな話題を呼び、多くの予約が殺到。今年1月から配布をスタートしていたものの、最大8カ月の遅延が発生していた。

記事引用元:https://www.wwdjapan.com/607378

2016年の出資の結果を考える

4月27日、スタートトゥデイは決算説明会の中で、2016年に出資した関連会社に関する減損損失を公表しています。この会社は昨年大きな話題になりました。

今回の決算発表で、出資(M&A)した会社が最終的にどうなったのか結論が出ました。M&Aを行うことも大事ですが、M&A後どうなったかを知ることは同じかそれ以上に大事ですので、今回はこの点を取り上げたいと思います。

出資の概要と経過

スタートトゥデイは2016年6月、ニュージーランドのStretchSense Limited.社(以下SSL)への出資を行い、39.9%の株式を取得しています。なお、買収ではない出資も広義のM&Aには含まれます。SSLはセンサーの開発を行う技術会社で、その技術のファッション分野への応用可能性に期待して出資を行ったようです。

ところで、39.9%という中途半端な株式を取得した理由の説明は見当たりませんでしたが、日本の会計基準では40%以上取得すると、精緻な決算書を作り親会社と決算を合算しなければならない可能性が高くなるので、この点を意識した可能性はあります。

このように、M&Aにおける株式の取得比率はビジネス上の影響のみならず、会計基準や会社法など様々な観点からの検討が必要になります。

幻のコールオプション

脱線しましたが、その後スタートトゥデイは2017年11月にSSLの残り全株(60.1%)を取得できる権利を約20億円で取得することを公表しました。株式を取得するのではなく、取得する権利を約20億円で買うというものです。

実際にこの権利を行使した場合、約72億円を追加で支払うことで残りの60.1%を取得できるという契約で、このような契約をコールオプションといいます。権利行使しなければ追加の約72億円を支払う必要はありませんが、コールオプションを取得するために払う約20億円はいずれにしろ戻ってきません。

スタートトゥデイはなぜこのような契約を行うのでしょうか。単純に今すぐ60.1%の株式を買えばいいのではないでしょうか。そこには経営戦略上とても重要な理由が一つあると考えています。

コールオプションを取得する理由

その理由は、SSLで行おうとしている事業の不確実性が高い中、経営の意思決定を早めるためです。

SSLはスタートトゥデイのプライベートブランド事業のカギとなる体形採寸用ボディースーツZOZOSUITの開発技術を保有しており、これまで業務上の連携を行ってきました。しかし当時はまだこの技術に依存した事業を拡大していけるかが不透明でした。であればうまくいきそうだと判断したタイミングで買収することが考えられます。
一方で、経営資源を投入してZOZOSUITの開発を急ぐため、また競合企業によるSSLの買収を防ぐため、100%買収の権利を手元に残しておきたいとも考えていたはずです。

つまり、現時点では、100%買収のリスクはとりたくない、しかし将来うまくいったときは100%買収できる権利がほしいという一見欲張りなような願望をスタートトゥデイは持っていました。そこで、この願望をお金を払うことで実現しようとします。それがコールオプションを買うことにつながります。
これにより、不確実性が高い状況下でも、ダウンサイドのダメージの軽減策を用意することでスピード感を持った経営判断を積極的に行うことが可能になります。

ところで、コールオプションを取得した理由の一つとして、スタートトゥデイは手元に現預金がなかったことを挙げる意見がありますが、私はこれは違うと考えています。

確かに、直近の四半期決算ではスタートトゥデイは約210億の現預金しかなく、ここから約70億をM&Aのために支払うことは相当な負担に見えます。
しかし、スタートトゥデイは無借金経営で財政状況は極めて健全であり、毎期大きく利益を生み出しているため数百億単位の借入ならば問題なく行うことができ、その気になれば株式を発行することにより資金を調達することもできます。あくまでも事業の不確実性が高いため資金調達もしないし、100%買収をしなかったと考えます。
逆に事業がうまくいきそうとなれば、大きく資金調達をして一気に拡大させる可能性もありうるでしょう。

出資の結果発表

ではどのような結果になったかといえば、2018年4月27日の決算発表と同時に、コールオプション契約締結の中止を公表しました。2017年11月に契約締結予定と公表したものの、その後交渉が難航していたため契約締結まで至っていなかったとのことです。前段で幻のコールオプションと書いたのはこのためです。
これに併せて、保有していたSSL株式と関連資産の評価損及び減損損失を合計約40億計上することが公表されました。また、SSLとは別の匿名のチームから買い取ったアイデアを基に新しいZOZOSUITを開発していくことに言及しています。
表面的な結果だけみれば、見込みが外れM&Aは失敗したため損失を計上したということになります。しかし、これが真実でしょうか。

今回はコールオプションが正式契約に至らなかったことによりその効果が曖昧になってしまったため、仮にコールオプション契約が予定通り締結されていた場合を検討してみましょう。結果は同じになった可能性が高いはずです。
SSLの技術に基づくZOZOSUITの開発と同時並行的に別の技術による開発を行い、結果として後者を採用したため、前者についてはもう用済みになる。
その結果として、コールオプションは使用せず権利放棄、SSL株式と関連資産の評価損及び減損損失計上ということです。

ではこのケースが経営判断の失敗だったかといえば全くそんなことはなく、想定した二つの計画のうちの一つが実現したにすぎないということです。
うまくいった場合はコールオプションを権利行使して100%買収して、そうでない場合は権利放棄し撤退することで損失を最小限に抑える。
つまり、損失を計上する可能性を織り込み済みでM&Aを検討していたということになります。

これは経営責任を追及されるため、M&Aによる損失は是が非でも避けたい多くの上場会社の現状からすれば異例の戦略です。
今回はコールオプションの契約締結は行われませんでしたが、このような考え方はM&A戦略を検討する上でとても有益なものだと思います。

次回は本件M&Aに限らず、スタートトゥデイのM&A戦略について書きたいと思います。

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冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士

KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。

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