2018.09.21
#47 UUUMによるレモネード買収、ハイバリュエーションを実現する3つの理由
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
youtubeからインスタへの進出
サボり癖が抜けませんが、久しぶりにガチM&A分析いってみましょう。
9月14日、UUUM社はインスタ・マーケティング事業を運営するレモネード社の全株式を約5億円で取得すると公表しました。
UUUMはYouTuberのサポート事業を柱とし、芸能事務所のようにYouTuberが所属しています。2017年8月に上場し、今回が初めてのM&Aのようです。
YouTuberサポート事業を行う会社がInstagrammerのサポートを行う会社を買収ということで、とてもわかりやすいM&Aですね。
多様なクリエイターというかインフルエンサーをサポートし、一方でクライアント側には多様なマーケティング手法を提供できるようになります、ということです。
買収理由はシンプルなので、今回はなぜこの金額なのか、というところにフォーカスします。
今回のリリースを見て、「5億高いな!」と多くの人が思っているように感じるんですよね。なので筆者なりに高い売却金額となった理由を想像しました。
パッと見た感じでは、理由は3つ思い浮かびました。皆さんも考えてみてください。
M&A未経験であっても、これまでM&A BANKの動画や記事をご覧いただいていれば1つ2つはわかると思います。
なぜ高値で売れたのか
1.アクハイヤー
Acqui-hire(アクハイヤー)とは、人材獲得を目的としたM&Aです。
アクハイヤーとはなんぞやについては下記記事で解説しましたのでお時間あれば。
「#29 ライザップのサプライズ人事に見る、アクハイヤーより優れた人材獲得術」
買収後、レモネードの代表取締役の石橋氏がUUUMの執行役員に就任するとのことです。
買収された企業の代表を続けるケースはよくありますが、本体の中核メンバーに就任するということは中長期的にUUUMの経営にコミットする可能性が高く、これが金額を押し上げた要因の一つであることは間違い無いでしょう。
ベンチャー経営者は一騎当千であり、経営者が残るか辞めるかによって買収金額が数十パーセント変わることも珍しくありません。
2.複数チャネルによる単価アップ
UUUMの前期サービス別売上は、youtubeアドセンス収入が約67億円、次にクライアントタイアップ広告収入が約37億円あります。
注目すべきはタイアップ広告です。クライアントは資生堂やタカラトミーなどの大企業も多く、新商品の販売などのキャンペーンの一環としてUUUMのyoutuberをアサインすることが多いです。
このタイアップ広告というものは営業マンがオーダーメイドで売っています。クライアントのニーズを踏まえ、どんなyoutuberを起用し、どの程度の再生数を見込んで、どんな視聴者を獲得できて、といった内容でクライアントを説得して案件を受注していきます。
この時にチャネルが一つだけだと「youtube1再生いくら」のような形で機械的に金額が決まりやすく、またその数値が期待値に満たない場合は単発の受注で継続発注に繋がらないことがよくあります。
ですが、他のチャネル、例えばyoutubeだけでなく紙媒体の雑誌も持っていたとすると、youtube+雑誌記事広告のセット販売という形で単価をアップする交渉材料になり、また2回目以降の受注のための提案材料になります。
具体例としては、リクルートの運営するフランチャイズ紹介メディアのアントレはwebメディアだけでなく、雑誌、リアルイベントの3つのチャネルで展開することで高単価で販売することを実現しています。
話を戻すと、レモネードの事業はインスタグラムをチャネルとして持っていると考えることができ、UUUMのyoutubeタイアップ広告の新たなチャネルと見ることもできます。
そのため単価アップや継続受注に繋がる可能性があり、UUUMにとって魅力的な事業であったと考えられます。
タイアップ売上は現状でも40億円規模なので、複数チャネル化により売上増加効果が約5%でもあれば買収金額5億円をペイするのは難しくないかもしれません。
3.類似会社
レモネードのようにインスタグラムマーケティングを主力事業とする企業は複数あり、代表格はタグピク社です。
タグピクは上場していないので正確な時価はわかりませんが、2018年4月にメタップスから資金調達しており、この時の時価総額が約9億円です(たぶん)。
ここで両社の主要KPI(本質的なKPIというよりPR的なKPIですが)である登録インスタグラマー数は、タグピクが約4,000人、レモネードが約2,800人であることから、単純に考えればレモネードはタグピクの約2/3の規模です。
さらにものすごい単純に考えれば、タグピクの時価総額が約9億円なのでレモネードは約2/3で6億くらいあるだろう、と考えることもできます。
そんな単純な計算なわけないだろうと思う方も多いと思いますが、売り手サイドではこんな感じに適当な指標を持ち出して売却金額を正当化する説得材料とすることはよくあります。
なので類似会社であるタグピクの時価総額が高いので、それに引っ張られてレモネードも高くなっていると考えることもできます。
理由は三つといいましたが、重要なのをひとつ忘れてました。
記事書いても誰からも反応なく寂しいので、四つ目はリアクションしてくれた人だけに公開しようかと思います。
ヒントとしては、M&A BANKプレミアム Vol.03「ハイバリュエーションの理由は?」の天才唐揚げマンこと柴田さんが話している内容です。
「イケそうな気がする!」と鼻息荒くなっているインスタマーケ会社の経営者の皆さん、四つ目の理由わかってないと全然高値つきませんのでご注意ください。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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