2018.10.10
M&Aアドバイザーのタイプ| AGSコンサルティング廣渡代表コラム Vol.1
国内屈指のベンチャー企業の財務支援実績を持つ総合会計事務所、AGSコンサルティングの代表を務める廣渡氏。去る4月に開催したベンチャーM&Aサミットでは、スポンサーとしての協賛に加え、解説としてM&Aの現場のリアルな実態を多数ご紹介いただきました。
今回は、会計事務所として長年企業の実務を支えてきたなかで蓄えられた知見の一部を公開してくださいます。
売却検討中の経営者必見の連載、全3回をお届けします。
企業の財務支援の一環として、M&Aもサポートするように
――まず、AGSさんのM&A支援の特徴としては、どういったものがあるでしょうか。
廣渡
当社の特徴は、「実務家」から出ていることです。M&A実務をサポートする会計事務所から発展したファイナンシャルアドバイザーなので、場慣れしていて、実務感覚のあるサービスを提供しています。
財務・税務デューデリジェンス(以下、DD)などをサポートする立場を10年、20年とやり続けながら、アドバイザリーに参入したんです。実務と並行して、アドバイスしている感じです。
ただし、実務に固執している訳ではありません。バリュエーションの結果を見ながら、「DDの内容を気にする必要はない。M&Aをしたいのであればやりましょう」と提案することもあります。それは私たちがDDを実際に手掛けているからです。
株価評価やDDを数多く経験してきたので、「ここがブレイクポイントになるかもしれないが、こう乗り越えればいい」とアドバイスすることができます。
ディールの中では、買い手から文句やつっかかりが出てくることがあります。数多くの現場を経て知識・経験を蓄積してきたことで、M&Aを成功に導くノウハウを持っているところは強みですね。
――他社のM&Aでは、マッチングをビジネスとしてそのあとのDDに移行しますが、御社はそのDD部分を本業として経験され、いろんな会社のDDを見てきている。だから経験からのアドバイスのやり方が身についている、ということですね。
廣渡
そこは圧倒的な違いだと思います。M&A成立後の過程を知っていることもありますから、深み、幅を持ってアドバイスができる部分は大いにあります。
紹介やマッチングするだけでなく、その後のこともちゃんと見ているので、買う人にとっても売る人にとっても説得力があるかと。
特に豊富なのは、ベンチャー企業のコンサルティング実績
――特に力を入れている分野はありますか?
廣渡
例えば、近年M&Aが多発しているヘルスケア分野や、日本全国のスーパーマーケットの再編などでしょうか。手掛けることが増えてくると、その結果得意になってきますね。動きが早い業種とそうでない業種があって、その影響を受けますし、M&Aアドバイザーは世の中の微妙な動きを見る必要があります。
それと、最近「これは来るな」と思うのは、ベンチャーM&A。私たちにとっては「餅は餅屋」で、これまでもこれからも非常に得意な分野です。会計事務所がごまんとあるなか、AGSはずばぬけてベンチャー企業に対するコンサルティング実績が多いです。ベンチャーに関する知見が豊富で、会話が成り立ちやすいからだと思います。
今は世の中の流れが速いので、一気にIPOを目指すのか、どこか別の会社と組んで事業を残した方がいいか、という議論がどんどんされるようになりました。
私たちはM&AとIPOそれぞれのサポートを20年来やってきましたが、ベンチャー企業のM&Aが成り立つとは4、5年前までは思ってもみませんでした。こうした状況は日本だけではなく全世界的なものですね。
――IPOを目指していたクライアントから「M&Aも考えている」と相談を寄せられるようになったのも、ここ数年ですか。
廣渡
ここ数年で非常に増えましたね。私どもとしてもIPOすることがゴールではないですから、M&Aでどこかと組んだ方が、会社も従業員も良い結果になって、伸ばしたい事業が本当に伸びるなら、それもアリではないかと伝えます。M&A BANKもいつかはそうなるかもしれないですよ。
ただ、こういう事業のM&Aは、上から二番手か三番手に入っていないと難しいです。そうでないとやっても面白くない。一気に一番手を狙えるという状況であれば、M&Aを検討してみるべきでしょう。
印象的だったディール
――過去のM&Aのなかで、印象的だった成功ディール、失敗ディールはありますか。
廣渡
私たちの中で面白かったと話が挙がるのは、上場準備をしていた戸建て住宅メーカーのディールですね。上場を希望していて成績もよく、億単位の利益が出ている企業で、M&Aの話は当初なかった。それが、結果的にファンドに買ってもらうことになったんです。
当時、「もちろん上場して株式公開するのは夢があるが、上場するためにはいろんなものを削ぎ落とす必要がある。これはやめろとか、今まで通りではだめだとか、それでいて儲けるのも難しくて、げんなりすることもあるだろう」と話をしていたところ、ファンドがもともと思っていた金額よりもいい金額で引き取ってくれた。
そのファンドには大きな野望があって、一社だけ上場させるのではなく、いろんな事業を付け加えて大きな力を蓄えてから上場させようと考えていたので、売り手である住宅メーカーにとっても好条件だった。これは成功したディールだったと思います。
失敗ディールとしては、「この条件で決まるな」と思っていたのに、交渉の最終段階で買い手がなんとなく嫌になって引っかかる部分を指摘しはじめ、決裂してしまうケース。買い手側がバリュエーションを下げたり、「ここは少し危険だ」と詰めてくるパターンだと決裂することが多いですね。
たとえば、売り手側のメインの取引先との契約書に難癖をつけ始めたことがあります。買い手が細かくデューデリジェンス(以下、DD)をして、「契約書のこの文言が気になる。これに縛られるのはリスクが大きすぎる」「当初は20億の価値があると思っていたが、このリスクがあるからあと2、3億は下げてもらわないと困る」と言い始め、売り手がげんなりしてしまった。これはDD完了後の話ですよ。
そのとき私たちは売り手側のアドバイザーをしていて、DDを受ける側でした。おそらく買い手側は、それを理由に値踏みをしたかったんだと思います。でもこれが強すぎるとブレイクしてしまいます。典型的な事例ですね。
買い手の評価に振り回されないために
――売り手は、買い手からそういう値踏みをされるリスクがあるということを事前に知っておくべきでしょうか。
廣渡
知っておいたほうがいいです。どうしてもそういうことは起こりますから。億単位の交渉ですから、買い手は気になることがあればそれを材料に、値段を交渉しにくるものです。売り手はそれであまり怒ったりしないほうがいいですね。
ちなみに私たちはセルサイドにつくことが多いんですが、その際はセルサイドDDをちゃんとしようと伝えています。「買い手からこういう嫌なことを言われますよ、値踏みされますよ」と伝えて事前の策を練るような感じですね。
――M&Aサミットで先日登壇いただいたバイアウト経験者の皆さんは、口をそろえてアドバイザーが重要だとおっしゃっていました。
M&A経験のない経営者はわからないことが多いし、本当に成立するのかも不安になりますから、相談できる人がいることは重要ですね。未経験で自分でやっていると、たとえばバリュエーションを下げられても、のむしかないと思ってしまいそうです。
廣渡:
そうですね。セルサイドDDをすることでいろんな情報を整理できますし、免疫もできる。
どうせ買い手のDDが入ると絞られるので、「こういうことを言われる」と知っておいてもらった方が、嫌な思いをせずに済みます。
最初は「いいね、いいね」と買い手におだてられていたのに、あとから「ちょっと問題が見つかったから」と難癖をつけられたりして、ジェットコースターに乗っているような状態になってしまいますから。そうならないように、セルサイドがしっかり身の程をわきまえるのが大事です。
次回更新は10 月17日(水)、ベンチャー企業のM&Aの留意点について、詳しく解説いただきます。
1967年、福岡県生まれ。90年に早稲田大学商学部を卒業後、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)入所。94年、公認会計士登録するとともにAGSコンサルティングに入社。2004年に代表取締役専務、06年に副社長を経て08年より社長就任。09年のAGS税理士法人設立に伴い同法人代表社員も兼務し、現在に至る。
※ベンチャーM&Aサミットでお話しいただいた内容の一部はこちらからご覧いただけます。
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