ユニゾにフォートレスが友好的TOB、1株4000円 HISに対抗
…ホテル運営のユニゾホールディングス(3258.T)は16日、ソフトバンクグループ(9984.T)の連結子会社である投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループが関係会社を通じ、株式の公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。買い付け価格は1株4000円で、買い付け予定株数は最大100%。…
引用元:https://jp.reuters.com/article/unizo-fortress-idJPKCN1V60PG
浸透度は低いが、役に立つ用語
M&Aそれ自体や関連する用語など、最近はかなり浸透してきたなと感じています。
例えば価値評価手法の「DCF法」といった単語は、昔は一般の経営者などにはあまり知っている人はいない印象でしたが、最近は多くの方が概要は理解しているように感じます。
そんな中でも多くの経営者が未だ聞いたことがなく、かつ役に立ちそうなものを今回取り上げようと思います。
ユニゾへのTOB
HISがユニゾに敵対的TOBを仕掛けていましたが、8月16日ソフトバンク系の投資ファンドであるフォートレスグループがTOBを行い、これにユニゾは賛同すると表明しました。
それにしても最近敵対的TOBが多いですよね。この辺りの背景はまたどこかで記事にしたいと思います。
今回はTOBそのものではなく、株式価値の算定方法がメインテーマです。
TOBにおける開示資料
TOB開始に先立ち、下記の資料が公表されています。
「ユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード 3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
今回だけでなくTOB時には公表される資料なのですが、TOBに至るまでの経緯、TOB後の経営方針、買収金額の算定根拠、など多種多様な情報が記載されています。
余談ですが私がFAとして初めて関わったM&AもTOB案件で、この資料を不眠不休で作っていました。
当該資料の8ページに、ユニゾのアドバイザー陣の一覧が、そしてKPMG FASが株式価値算定機関として株価算定を行い、その結果が13ページに記載されています。
ここで主たる評価手法としてDCF法を採用していますが、多面的検討のための補足的な評価手法としてサムオブザパーツ(Sum Of The Parts)法を採用しています。
サム・オブ・ザ・パーツ法
サム・オブ・ザ・パーツ法とは、複数の事業や資産を有する企業体の理論的な企業価値(株式価値)評価の手法で、各事業毎に事業評価額を算出し、それらを積み上げて全体の評価を行います。
今回のケースでいうと、ユニゾには不動産事業とホテル事業の2事業があり、それぞれ別の手法により評価しています。
具体的には、不動産事業は賃貸等不動産鑑定評価額(アセットアプローチ)を基礎として事業価値を算定し、ホテル事業はDCF法(インカムアプローチ)により事業価値を算定しています。
そしてこれらを合算し、そこから借入金(正確にはネットデットですが簡便的に借入金と表現)を引くことで理論上の株式価値が計算できます。
その結果、以下の評価金額となっています。
DCF 法:3,640 円~4,537 円
サムオブザパーツ法:4,498 円~5,215 円
今回は結果的にDCF法よりもサム・オブ・ザ・パーツ法の方が高い評価結果になりました。
もちろんこれはKPMGが客観的な立場から評価したものではありますが、わざわざDCF法とは別の評価方法を併用した理由としては、
ユニゾとしては自社の株式が高く評価される方が望ましいため、その主張をサポートする観点から採用したとも考えることができます。
実務への応用
今回はM&Aにおける売り手の理論株価算定のため、サム・オブ・ザ・パーツ法の簡単な説明をしましたが、他のシチュエーションにも使えます。
複数事業を営んでいる会社であれば自社の理論的な価値を知ることができるし、このような会社の買収を検討しているときにも参考になります。
また、実はM&AではなくIPOにもこの考え方は使われています。
IPO時の想定バリュエーションを考える際にも、複数事業を営んでいる場合はサムオブザパーツ法を使用することが可能です。
とはいえ、そこまで一般的ではなく、証券会社からサムオブザパーツ法による提案があるとも限らないので、
「自社にはもっと高い価値があるはず」と考えている経営者の方は、このような考え方があることも頭に入れながら証券会社とバリュエーションの議論をしてみてください。
冨岡 大悟: M&A BANK株式会社 代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部に所属。IPO関連業務、M&AのDD、会計監査等に従事。フロンティア・マネジメント株式会社にて、M&Aアドバイザー業務等に携わる。その後、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後、TOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IPO、M&A、資金調達、事業開発等のコンサルティングを行う。同時に、IdeaLink株式会社の取締役CFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員に就任。
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