事業継承の一環などで、事業譲渡や会社分割を行うケースが増加しています。売却益が得られる前向きなケースもあれば、不採算部門の切り離しなど実質的なリストラのケースなど、状況は様々なようです。
そこで本稿では、会社の事業の一部を他社に移転させる手段として用いられている「事業譲渡」と「会社分割」について、その主な違いを解説します。
事業譲渡と会社分割
事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業を他社に対し、文字通り譲渡する行為です。
一方で会社分割とは、会社がその事業の全部または一部を分割して他の会社に承継させる行為です。既に存在している会社に承継させる場合は吸収分割、新しく設立する会社に継承させる場合を新設分割と言い区別されています。
事業譲渡と会社分割の比較
事業譲渡と会社分割の主要な違いは下記の5点です。ひとつずつ見ていきましょう。
事業譲渡 | 会社分割 | |
行為内容 | 売買契約等による取引 | 組織再編による権利義務の継承 |
主な会社法の根拠 | 第467条(事業譲渡等の承認等) | 第758条(吸収分割) 第763条(新設分割) |
決定機関 | 株主総会(特別決議)、一部例外あり | 株主総会(特別決議)、一部例外あり |
債権者保護 | 個別の同意 | 債権者保護手続き |
税金 | 課税 | 適格分割と非適格分割により異なる |
行為内容
事業譲渡は売買契約による取引と見なされる一方で、会社分割は組織再編などによる権利義務の承継と位置付けられています。事業を他社に移すという行為自体は類似の行為となりますが、立ち位置が異なるとの認識を持つと、両者の違いに対する理解もスムーズに進みます。
主な会社法の根拠
根拠となる会社法の条文も異なり、事業譲渡は第467条(事業譲渡等の承認等)、会社分割は第758条(吸収分割)、第763条(新設分割)が主な根拠条文です。
決定機関
実際に事業譲渡や会社分割を行う際は、株主総会での特別決議(株主総会に出席株主の2/3以上の賛成)が原則必要とされます。
ただし、事業譲渡では会社法第468条において株主総会の承認を必要としないケースも規定されています。主にグループ内再編により90%以上の議決権を有する特別支配会社が子会社の事業譲渡を受ける際は、株主総会の特別決議を必要としないとされています。
また、会社分割についても、会社法796条にて株主総会の承認を必要としないケースが規定されています。しかしながら会社分割の場合、承継会社が譲渡制限付き株式を発行する際は、株主総会のプロセスを省略できません。日本の未上場会社の殆どは譲渡制限付株式を発行しているため、上場会社を除けば殆どのケースで会社分割は株主総会の特別決議が必要となります。
債権者保護
債権者保護手続きについては、事業譲渡では債権者・債務者いずれも個別の承諾が必要です。一方で会社分割では、契約関係自体が承継会社に移転するため、債権者・債務者の同意手続きは必要ありません(当然、ビジネスマナーとして事前の連絡は必要)。
しかし債権者保護の手続きが別途定められており、債権者の一定期間(1か月以上)の異議申立て期間を設定した上で、異議の申し立てができる等の事項を官報で公告し、各債権者に個別に催告する必要があります(会社法第799条2項)。尚、債権者からの異議申立てがある場合、債務の弁済や担保の提供、財産の信託等の手続きが必要です。
税金
税金面では、事業譲渡の場合は譲渡益(譲渡価格-譲渡される資産の帳簿価格)が法人税の課税対象です。譲渡価格については買い手との交渉となりますが、仮に簿価に比べ大幅に高い金額での売却がなされた場合は、その後の法人税の支払い額にも留意する必要があります。
会社分割の場合は、適格分割と非適格分割の2つのケースが存在します。適格要件については、分割の対象とされた資産に対する支配の継続性によって判断され、承継会社への支配が継続の場合は単なる組織再編であるため適格分割、非継続の場合は実質的な譲渡とみなされ非適格分割とされます。
そして適格分割の場合は資産等の移転は帳簿価格で行われたものとされ、譲渡損益の計上はありません。一方で非適格分割の場合は、資産等の移転が時価により譲渡されたものとされ、譲渡利益もしくは譲渡損失の計上が必要となります。(尚、当然ながら承継会社に対しては、適格分割の場合は簿価で該当資産の移転がなされ、非適格分割の場合は時価で移転がなされます。)
まとめ
事業譲渡は名前の通り会社の事業を譲渡する行為を指しますが、会社分割は組織再編行為となるため、単に自社及びグループ内で会社分割を行う場合、原則課税関係は発生しません。しかし、社外の会社を巻き込んだ会社分割となる場合、実質的には事業譲渡とみなされます。そのため、税制面では事業譲渡と会社分割にそれほど大きな違いは生じません。
ただし事業譲渡、会社分割について、それぞれ手続き面に違いがあり、メリット・デメリットが存在します。メリット・デメリットを総合的に検討した上で、事業譲渡と会社分割のいずれを選択するか、判断する必要があると言えるでしょう。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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