2019.09.03
M&Aのテクニカルな落とし穴シリーズ|Vol.208
落とし穴①最終合意で…
島袋
最近バイアウトした人たちから話を聞いていて、やっぱりM&Aって怖いなと思ったんですよね。
何が怖いか、ちょっと今日はテクニカル編、玄人な感じでお話ししていきたいと思います。
まずは最終合意について、ここで気をつけるべきことってけっこうあると思うんです。
冨岡
1番最後、譲渡するときの契約書ですね。
島袋
基本合意をしてデューデリをして、最終合意の契約書が来て、弁護士さんと確認して「これでOK」となったら合意しますよね。
「ではこれでいきましょう、最終版です」という形で改めてメールが来ます。
そこで実際に送られてきた契約書に、依頼した修正が反映されていなかったというケースがあったらしいんです。
意図的なのか、そうじゃないのかはわかりません。
でもその結果、もしそれで判を押してしまったら、それまでにやりとりしたことがどうであれ、「判を押したものが全てです」となってしまったということがあったそうなんです。
冨岡
僕も昔ありましたね。わざとだったかはわからないんですけど。
島袋
ありました。
冨岡
結果的にそのときは最後に判を押したバージョンではなく、メールでやりとりした合意の内容を使うことになりましたけど、それでも揉めましたよ。
落とし穴②契約したのに…
島袋
さらに、こういうのもあったんですよ。
これはブルーム・キャピタルの宮崎さんに聞いたんですが、判子を押したら、対価としてお金が振り込まれるはずなのに、振り込まれない。
そうなると、契約は締結しているけど、「売買代金未払い」という処理になるらしいんです。これ、地獄ですよね。
所有権は相手に移っているのに、単純にお金が未払い扱いされるような。
冨岡
それ、結局どうなったんですか?
島袋
銀行とかが対応するらしいです。
ある程度の規模だと、銀行のある部屋で、その場で振込ませるような感じらしいです。
冨岡
M&Aに限らず、高額決済だとそういうことがあるらしいですが、それでもめったにないことだと思います。
わざわざそんな銀行に行ってその場でというのは…
うちでも、今までしたことありませんよね。
島袋
ないですね。
でも恐ろしい話ですよ。
落とし穴③アーンアウト条項をつけたら…
島袋
あともうひとつ、M&A BANKでも度々取り上げている「アーンアウト」、これは非常に気をつけなきゃいけない。
ネットで調べてもらえばわかると思いますが、アーンアウトというのは、契約締結してから数年後とか、ある未来の時点においてこの目標を達成した場合、追加でインセンティブを与える形に設計するものです。
たとえば、20億円のディールでうち10億円はアーンアウトにして、締結から2年後にこの業績が2倍になったら払います、という形で契約できます。
売り手としては、その目標が達成できそうなら、アーンアウトで了承して判をつきますよね。
でも、こんなことが起こりうるわけです。
判子を押して契約を締結した時点で所有権は変わっているので、事業が右肩上がりになっても、たとえば新しいオーナーが役員を派遣してきたりして経費を膨らませてくる。
もし計上利益を握られていた場合は、新オーナーが意図的に条件の達成を阻害できるということです。
実際、こういう事例が大きい企業でもあるそうなんです。
冨岡
そうですね、これはけっこうあります。
買い手と売り手の希望価格にギャップがあるときの調整弁として使いやすいので、アーンアウト自体は比較的浸透してきて、「とりあえず使おうか」という風にはなってきました。
でも、アーンアウトの達成条件は具体的に何を基準に設定すべきかまではまだ浸透しきってない感じですね。
たとえば先ほどの例のように、利益指標で設定するとうまくいかないことが増えます。
特に売り手からすれば、経費を勝手に入れられてしまう状況になると、コントロール不可能になりますよね。売り手の立場でコントロール可能な指標をアーンアウトの条件にするよう、できるだけ交渉した方がいいです。
たとえば売上なら、利益指標よりはまだコントロール可能です。
あと我々が実際にアドバイスした案件では、案件獲得数を達成条件を置きましたよね。その場合は売り手の方が案件を自分で動いて獲得すれば売上になりますから、外部からはコントロール不可能です。
そうすると、そういう揉めごとは生まれにくい。
交渉にはなりますが、売り手はできるだけM&A後もコントロール可能な指標をアーンアウトの達成指標に置くことが、1つ大きなポイントになります。
島袋
M&Aに強い弁護士にアーンアウトの設計について議論させてもらう機会を1回設けた方がいいですね。
冨岡
そうですね。弁護士さんもそうですし、専門的なアドバイザーさんにも聞いたほうがいいと思います。
アーンアウト自体が法的には問題ないので、その指標が売上なのか、売上総利益なのか営業利益なのかには突っ込まず、スルーしてしまう弁護士さんもいらっしゃいます。
なので、その点はちゃんと取り上げて相談したほうがいいですね。
島袋
ということですね。
冨岡
ということで、テクニカル編でした。
島袋
がっつり話したらちょっとお腹すいちゃったな。
ではみなさん、またM&A BANKでお会いしましょう。
■島袋直樹:M&A BANK株式会社-取締役会長
シリアルアントレプレナー。26歳でインターネット広告代理店を創業、年商20億円規模に成長させる。2016年に同社を分社化し、インターネットメディア運営を主体とするIdeaLink株式会社を創業。2017年12月、自社メディア5媒体を上場企業に事業譲渡し、2018年3月よりM&A BANKの運営を開始。「事業は創って売る」をモットーとする。「会社は伸びてるときに売りなさい。」の著者。
■冨岡 大悟:M&A BANK株式会社-代表取締役/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部、フロンティア・マネジメント株式会社でのM&Aアドバイザー業務を経て、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後にTOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IdeaLink株式会社のCFOの他、上場準備会社を中心に3社の社外役員も務める。
順次更新、島袋・冨岡の出演動画 一気見はこちらから
(M&A BANK YouTubeチャンネル)
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