2019.11.30
過去の買収、売り手も納得の交渉術とは|Vol.239
ひとつに絞った事業を、M&Aでさらに伸ばす
島袋
今後の成長戦略には、やっぱりM&Aも入ってくるわけですよね。
岩田
もちろんそうです。
島袋
2018年に事業買収されたアドレポさんは、EVERRISE社の広告運用レポートの自動作成ツールですよね。
これはAD EBiSの機能を拡充させるために買ったんでしょうか。
岩田
そうなんです。マーケティングの効果測定に集中したことである程度成長したんですが、このビジネスの基本は広告の効果測定なので、広告主とメディアと代理店が主なプレーヤーになっているんです。
特に広告代理店がAD EBiSを使うケースがそこそこあって。
島袋
使ってました。
岩田
だから、広告代理店にとってもいいツールじゃないと売れにくいんですよ。
でもよくよく考えてみると、広告代理店にとっての効果測定って100%欲しいものではなくて、ちょっと諸刃の剣みたいなところがあるじゃないですか。
島袋
「(顧客に見せたくないところまで)見えすぎだ!」みたいな?
岩田
よくも悪くも、説明責任が発生するんですよね。
もちろんうまくやってくださる方は現実もちゃんと直視した上で、「次はこうしましょう」とか「ここは伸びているので、もっとこうやっていきましょう」としっかり提案できるんですが、そこまでやるのは大変だという方も正直いらっしゃいます。
それに、レポーティング業務でそもそも工数が増えるわけですよ。
島袋
確かにそうか。
岩田
従来は媒体の管理画面のデータを元にお客様に説明していたのに加えて、AD EBiSのデータまでセットにしてお客様に報告しないといけないので、レポーティングの工数がちょっと増えてしまう。
そういうこともあって、広告代理店にとって100%プラスのツールかと言うとそうでもない状況でした。
それを踏まえてAD EBiSを売るためには、広告代理店にも100%求められるソリューションを提供して業務効率を上げて、その上でAD EBiSをのせていただくという順番がいいんじゃないかなという事業戦略です。
島袋
なるほどね!じゃあ代理店開拓用のツールとして買った感じなんですね。
岩田
そういう形になりますね。
広告代理店の業務フローの中でレポーティングが占めている割合ってけっこう多いんですが、テクノロジーでカバーできるところがけっこう多いので、まずはここをサードパーティのテクノロジーベンダーとして担っていけば、社会的な価値があるんじゃないかと思ったんです。
島袋
確かに。
利益はそんなに出なくても割安なディールだった
島袋
それを買ってみて、実際どうでした?
岩田
おかげさまでそこの部分では価値貢献できてますし、購入させていただいたときの月間のストック売上を考えると倍ぐらいにはなっています。
そこでの業務効率でも、AD EBiSをのせてシナジーを出すところでも一定の効果があるので、パフォーマンスのいいディールだったかなと思っています。
島袋
いくらくらいで買ったんですか?
岩田
2億ですね。
売上は月1000万いかないくらいでしたが、とはいえ年間で1億くらいの売上になるじゃないですか。
ただ当然ながら、営業もサポートも開発も必要なのでそんなに利益は出ないです。でも我々は倍とかにできる自信もあったし、そのレポーティングをしている中でAD EBiSの効果測定を使いたいというニーズも出てくれば売上が数倍になるのも見えていたので、我々からしたら2億というディールはすごく割安なんです。
売り手からすれば、利益で1億、2億出そうと思ったらどこまでやらないといけないんだ、みたいな話になるので、双方にとってけっこういいディールだったんじゃないかと思っています。
ロックオンされたら、売るしかなかったのかも。
島袋
どうやって見つけたんですか?
岩田
けっこう探しましたよ。
詳しいところは申し上げにくいんですが、簡単に言うと、我々が買えるところというと数社しかないんですよ。その事業をやっていて、それなりに機能とシェア持っているような会社って。
もし全部ダメだったら、自分たちでやるしかない。
なので基本的には「自分たちでやる」ということも1つの選択肢として持って天秤にかけながらお話をする。
「自分たちでやる可能性があって、競合になるかもしれないけど、提携できたらいいかもしれない」と。
島袋
ビビるなあ~その感じで来られたら。(笑)
当時はロックオンですよね。ロックオンにロックオンされちゃった!みたいな。
岩田
でも本当にその通りなんです。別に脅してるわけじゃないですよ。
島袋
いや、脅してますよ。(笑)
岩田
ははは。お互いにとってプラスな関係を築こうよということですよ。
我々もその事業だけ譲っていただければいいと思っていたので、ちょうどよかったですね。
島袋
いやあもう、岩田社長は交渉のプロですね。
岩田
そんなことはないですよ。
やっぱり相手方にもWinを享受していただいてWin-Winという形がやっぱり基本だなと思っています。
島袋
でも、たしかDMMの亀山さんも言っていたんですが、上場企業が買いたい会社を買いに行くアプローチのしかたとして、確か「御社の事業に興味あります、もしダメだったら我々が参入します」とメッセージを送るというのは、よくある方法みたいですね。
なんか一見ちょっと怖いと思いましたが、むしろ律儀ですよね。
岩田
そうですね、ちゃんと正面突破しているわけなので。
島袋
売り手さんも「確かにあそこが参入してきたらやばいな」「じゃあ売ろう」と思うでしょうし。
全然真っ当ですよね。勉強になります。
岩田
当社の場合は少なくともそうですが、まずは本当にやりたい事業、当社の中長期ビジョンから逆算してやらないといけない事業をしっかり考えるわけです。他社がどうあろうが我々がやると決めた話なので、その上でそれを自分たちでやるのか、そのタイミングでどこかにご一緒していただくのか、という考えの中でM&Aという選択肢が出てきたという話なので。
島袋
なるほど、いやあ面白い。
では次回は、中期経営計画やM&A戦略についてお話を伺いたいと思います。
ではまたM&A BANKでお会いしましょう!
■岩田 進:株式会社イルグルム-代表取締役
1997年、関西学院大学を休学し、バックパッカーで東南アジア、北米を旅する。飲食店経営、旅行ビジネスでの起業を経て、2001年有限会社ロックオンを設立し、代表取締役へ就任。卒業翌年に有限会社ロックオンを株式会社化。2019年に社名を「株式会社イルグルム」に変更。
■島袋直樹:M&A BANK株式会社-取締役会長
シリアルアントレプレナー。26歳でインターネット広告代理店を創業、年商20億円規模に成長させる。2016年に同社を分社化し、インターネットメディア運営を主体とするIdeaLink株式会社を創業。2017年12月、自社メディア5媒体を上場企業に事業譲渡し、2018年3月よりM&A BANKの運営を開始。「事業は創って売る」をモットーとする。「会社は伸びてるときに売りなさい。」の著者。
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