2018.04.25
事業譲渡によるM&Aを検討している経営者が知っておくべきメリット・デメリット
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
M&Aという言葉を目にしたことがある、または耳にしたことがあるという方はたくさんいらっしゃると思います。一方で、その詳細については、あまり知らないという方もおられるのではないでしょうか。
このM&Aには様々な手法があり、その都度目的に応じて選択することになりますが、今回は事業譲渡についてみていきます。M&Aの手法はしっかりと理解しておくことで、M&Aの目的や財務的な状況を鑑みたときに最も効果のある手法を選ぶことが出来るようになるでしょう。
経営者として、あるいは会社役員として知っておくといざというときに役に立つはずです。
事業譲渡とは何か
事業譲渡は会社の事業を売却することと同じです。ここでいう会社の事業とは、一部でも全部でも売却可能であり、事業譲渡は売買契約や賃貸借契約によって取引が成立するため、かなり自由に事業を切り取ることが出来ます。
さらに、債務や債権などを切り離すことも可能です。うまく行うことで、買い手企業・売り手企業のどちらも経営の立て直しやシナジーによる成長を見込める場合がある仕組みとなっています。
ただし、売り手企業側は、売却した事業について同一の事業を行うことに制限が加わるため、注意しなければなりません。他にも、株主総会の特別決議が必要であるなど、注意しなければならない点がいくつかありますので、ぜひ事前にチェックしておきましょう。
事業譲渡のメリット
まずはメリットについてご紹介します。メリットは、売り手と買い手それぞれに異なるため、本稿で確認してください。
買い手企業のメリット
・取得したい資産や事業などを取捨選択できる
・債務の引き継ぎが必要ない場合がある
・のれんを5年間償却の損金とすることが出来る
買い手側の大きなメリットは、事業をかなり自由に取捨選択できるという点でしょう。
なお、ここには債務の引き継ぎも含まれます。そのため、最もポピュラーな手法である株式譲渡の場合、事業だけでなく会社そのものを買い取る必要があるので債務や不良債権も受け入れなければなりません。
一方、事業譲渡であればそういったことはほとんどないので、安心です。また、事業譲渡の場合、財務上「のれん」が出てきますが、これは5年償却で損金計上できます。条件に合えばM&Aに必要となった資金の多くが損金として計上できるというのは大きなメリットといえるでしょう。
売り手企業のメリット
・現金を得ることが出来る
・事業が取捨選択できるため、会社の存続が可能
売り手側最大のメリットはやはり現金を得られる点でしょう。
また、事業として売却できるものの中には、将来的な成長性を加味した金額を提示することも可能です。その場合、今までの投資額に比べてはるかに大きな金額となる可能性があります。
なお、株式譲渡とは違い、会社全体を渡すわけではないので、会社の存続が可能です。創業者一族の相続的な資産管理会社として株式会社を残す、といった戦略も可能といえるでしょう。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡には当然ですがデメリットもあります。確認していきましょう。
買い手側のデメリット
・従業員との契約が必要
・不動産の移転登記や特許権の移転登録など、権利の移転が必要
・許認可が引き継げない
基本的に事業譲渡は売買契約のため、それに付随する契約関係を自動的に引き継ぐことが出来ません。そのため、事業自体は手に入ったが、そこで働く人をうまく引き継げなかったり、許認可の取り直しが必要だったりと、事業譲渡が行われた後の手続きが煩雑となることがあるでしょう。
売り手側のデメリット
・株主総会の特別決議が必要
・負債の取り扱い
・譲渡益は課税対象
売り手側としてはまず株主総会を開く必要があります。特に、株式に関わるステークホルダーが少ない中小企業やオーナー企業ではなく、上場を果たし株式の取得に多くの人が関わっている場合は非常に厄介です。
また、負債の取り扱いも難しいうえに、契約が売買取引である以上、譲渡益が完全な利益として会計上に浮かび上がってきます。うまく扱わないと、思いがけない税額となってしまい、現金を得られるというメリットが薄まってしまうことがあるでしょう。
おわりに
事業譲渡を利用したM&Aには様々なメリットがあることがわかっていただけたと思います。それでも、株式譲渡に比べてあまり耳にしない理由は何でしょうか。それは、大企業同士のM&Aでは事業譲渡を選択することが少ないからだと考えられます。
株主総会や、従業員との雇用契約のまき直しなど、関係する人が必然的に多くなってしまう大企業にとっては、M&Aの後のやり取りが非常に煩雑になってしまいがちです。また、全ての権利関係を引き継ぐことが出来る株式譲渡のほうが、管理コストがかかりません。
一方、中小企業にとっては、事業自体を切り分けできる事業譲渡は非常に大きなメリットがあります。その他、株式の移転なども発生しないため、売り手も買い手も、お互いの思惑をうまく満たしてくれるようなスキームを作り上げることも十分可能です。
ぜひ、税理士などの専門家と相談しながら、お互いに最もメリットのあるスキームを作り上げてみてください。
安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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