2020.05.28
資本政策の後悔と反省
いつ、誰に、いくらで、何株割り当てるかを考える‟資本政策”。
資金が豊富でない創業者なら基本的に持ち分は減る一方。「まずい」と思ってから株を買い戻そうと思っても、同意を得るという点でも資金を準備する点でも回収は難しいため、初期の判断が原因で思うように経営ができなくなり、長期間苦労するケースも少なくないようです。
M&A BANKのインタビューでも、売却後の2周目の経営では1周目の反省を活かしているというお話が度々出てきました。
今回はそれらのノウハウをまとめてみたいと思います。
反省①ゴールから逆算して考えるべきだった
無計画にエクイティでの調達を進めると、創業者の持ち分が薄まりすぎて思うように方針を決められなくなったり、場合によっては経営者でいられなくなってしまう可能性もあります。
具体的には、3分の1以上の議決権を持つ投資家がいた場合、社名変更や新たな株式発行による資金調達、M&Aなど、株主総会の特別決議が必要な事柄はその株主の了解なしには実現できなくなります(拒否権が発生するため)。50%以上を持たれた場合は役員の選任も思い通りになり、3分の2以上になると、それ以外の株主は拒否権も使えない状態になります。
最初はそれほどの持ち分でなくても、資金を豊富に持つ株主からは繰り返し調達を行い、のちのち一定のラインを超えてしまう可能性もあります。
そうならないためには、IPOやM&Aなどのゴール設定と、そこまでの段階的な計画が必要です。
仮でも指標になるものがあれば、今回の調達がその後にどう影響しうるかを想定し、そのリスクを回避する手を打てるようになります。
計画通りに進めることはできないかもしれませんが、目標と現在地を把握して都度調整ができれば、最悪の事態は免れられるはずです。
反省②自己資金でビジネスをある程度形にするべきだった
資金調達が一番大変なのは一番最初、ビジネスが形になり、高い需要があると感じられる状態になるまでと言われています。うまくいくまでの試行錯誤そのものも大変ですし、その間の資金も必要です。価値がまだはっきり見えていない段階では出資者にアピールできる根拠や魅力が多くないので、出資者が見つかっても立場が弱くなりがちです。
価値が見出しにくい(評価が低い)段階でエクイティで資金を調達してしまうと、少ない資金でも多くの割合を渡すことになり、早々に創業者の持ち分が減ってしまいます。そうなると、その後の調達の選択肢を狭めてしまうことにもなりかねません。
エクイティでの調達を始める前に、まずは自己資金である程度の形を作り、それでも足りなければ、デットで調達する。
アイデアだけでなく、実際に動かせるものがある状態になってからであれば、よりよい条件でのエクイティ調達が可能になります。
反省③代表者が株の過半数を持つべきだった
起業には「一人で始めたビジネスがだんだん大きくなって…」というパターン以外にも、同志と呼べる人と半分ずつ株を保有し、共同経営者という形で創業するパターンがあります。
一人ではできないことに最初から挑戦できるメリットがある一方、意見が割れた場合の意思決定ができないという致命的なリスクもあるため、中には‟社の雰囲気を制した方が勝つ”状態になったり、解散することすら難しくなってしまうケースもあります。
多くの場合で一方がもう一方の株を買い取って持ち分を変える選択をしているようですが、会社の規模が大きくなっていると、株の価値が上がった分買い取りに必要な金額も大きくなるため、判断はできても実際に買い取るのが難しくなってしまいます。
そのため、同志と一緒に起業する場合でも、株は半々にしない方が賢明です。その後の株の放出の可能性も考えて、金銭的なリスクを負う側ができるだけ多めに持っておくべきでしょう。
早い段階、できればはじめから適切な配分にしておくべきですが、後から持ち分比率を調整する方法としては、事業提携ができそうな法人に共同経営者の株を買い取ってもらうというやり方もあります。
反省④価値を高めてくれる投資家には積極的に株を渡すべきだった
①の話と相反するようですが、外部の株主を迎えず、自力で拡大したことを反省するケースもあるようです。
自力で成長するためにあれこれ施策を打ったものの、企業価値に直接ヒットしないものも多く、結果的に成長に時間がかかった、無理に持ち株100%にこだわる必要はなかった、という意見です。
良質なステークホルダーが増えれば成長のスピードが上がる。自分の持ち分が減っても、外部の株主が入ることで事業の価値総額が増えるなら、持ち分の価値はむしろ大きくなるという考え方もあります。
新しい事業を始める場合、知見のある人には大きな比率を渡して一緒に取り組んでいく方がいいかもしれません。資金以外の価値提供(アドバイスや紹介、提携)が豊富な投資家なら、投資額が低くてもぜひ加わってもらうべきかもしれません。
株主が出資してくれる額だけでなく、‟株主がなにをしてくれるか”という点も、外部から株主を迎える際の大きなポイントです。
反省⑤VCからの調達のデメリット、デットの活用法も知っておくべきだった
リスクが高い領域での挑戦には株式での調達が必要になりますし、多額の資金が必要な場合に力になってくれるVCは起業家にとってありがたい存在です。
一方で、VCはファンドとしての成果を出すため、投資契約の内容をデットに近い条件にしている場合が多いようです。特に優先株で契約した場合は、調達時よりも低い企業価値で会社を売却してもVCが出資額の1倍は回収できる設計になっており、中には2倍とされている場合もあるそうです。
他にも、VCが出資先企業をある会社に売りたいと思ったときに、他の株主の株もすべて譲渡することができる‟ドラッグアロング条項”といった要注意条項を入れられる場合もあります。
起業家はエクイティでの調達を意識しがちですが、デット向きのプレゼンがきちんとできれば、銀行からもある程度の資金を調達することも可能です。議決権を渡さずに資金を調達することができるうえ、きちんと信頼関係を築ければ、‟返したあとにより大きく借りる”ことも可能になるかもしれません。
また、「すごい経営者は自分で銀行からお金を借りて、リスクを負って会社を興している。‟経営者自身がお金を借りて経営していること”に本気度が表れる」という考え方もあるようです。
失敗談はなかなかオープンにしにくいはずですが、ノウハウとしてシェアしてくださる器の大きいゲストもいらっしゃいます。
今回の内容も、皆さんの資本政策のお役に立てていただければ幸いです。
資本政策 参考・おすすめ文献
磯崎哲也(2015)『起業のファイナンス増補改訂版』日本実業出版社
佐々木 義孝(2019)『IPOを目指す会社のための 資本政策+経営計画のポイント』中央経済社
▲こちらは過去ゲスト佐々木さんの著書。インタビュー記事はこちら
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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