2020.05.26
M&A後の経営者のキャリア 具体事例10
前回の「経営者のタイプ別M&Aの活用法」では、売却後の経営者のキャリアとして‟引き続き経営する”‟得意なフェーズの経営に注力する”‟投資家になる”の3種類をご紹介しました。
では、具体的にはどんな事例があるのか?
これまでのM&A BANKのゲストのキャリアを分類してみましたので、気になるケースはぜひインタビュー本文もご覧ください。
※インタビュー日順に掲載。いずれもインタビュー当時の肩書き、情報となります
・引き続き経営する
リソースやスキルの問題で苦戦していて、それらの問題を解決できる尊敬できる買い手候補が見つかった場合、M&Aで買い手企業傘下で経営を続けることが可能になる。子会社社長として経営を続けるほか、親会社の経営に参画するケースもある。
買収後も引き続き経営してくれることを望む買い手は多いので、相性さえよければ両者がハッピーになりやすい。
事例①バズるメディアを営業に強いベクトルグループへ売却、その後も所属
- メディアが堅調に成長。既に付き合いがあり、営業に強いベクトル社に業務提携の相談を持ち掛ける
- ロックアップ期間後も会社に残り、新規事業を立ち上げ
事例②インタースペース社に入って11年、子会社社長と本体役員も
- 2007年にインタースペース社に事業を売却
- 2018年に子会社となり、本体の執行役員と子会社の社長に就任
事例③‟永久進化構想”を掲げるクルーズグループの一員に
- 子会社でも起業している時と変わらないレベルの経営ができるため、売却後も経営を継続
(意志決定は基本的に自由、他の子会社との連携も必須ではない、インセンティブ設計もある等) - 2019年には代表を交代し、クルーズグループ内で海外市場の開拓に挑戦を始めているそう
事例④ヒト・コミュニケーションズHD傘下に入り、本体のCIO的ポジションにも就任
- IPO準備もしていたが、事業を拡大させる最短のルートを選んだ結果、東証一部上場企業へ売却することに
- 売上規模や土台がしっかりした会社の中に入ることで圧倒的なパフォーマンスで信頼性を得られると考えた
- HDの孫会社の社長の他、ヒト・コミュニケーションズ・ホールディングスの執行役員も務め、更なる成長を目指す
該当事業を引き続き経営するために傘下に入るケースだけでなく、新しい事業に取り組みやすい環境を求めてグループインしているケースもありました。
・もう一度~~したい
起業や変革など、ある一定期間の経営を得意とする経営者の場合、そのフェーズが終わったタイミングでM&Aを活用すれば、次のフェーズを得意とする経営者(会社)へ該当ビジネスを譲り、得意とするフェーズで課題を抱えている新たなビジネスの経営に取り組むことが可能になる。
起業が得意な場合は‟シリアルアントレプレナー(連続起業家)”、規模の大きい企業をより成長させることを得意とする場合は‟プロ経営者”としてのキャリアを磨くことができる。
事例⑥経営しながらVCを組成、同時多発的な起業ができるように
- VCファンドの運営とスタートアップの代表の二刀流
- VCファンドは自分で会社を作って自分で投資するための専門組織
- ずっとある会社を運営していくのではなく、‟たくさん作って、早く売る”を目指す
事例⑤売却後にどうしてもやりたくなった事業を始めるため、新会社を設立
- 売却後に思ったよりも手ごたえを感じられず、もっと高みを目指したいことに気づく
- 売却後の会社では動画事業を始めることができなかったため、新しい会社を1から作ることに
見方によっては‟投資家”ケースにも分類できるかもしれません。
当事者としてどのくらいコミットするのか、起業家~経営者~投資家の間のグラデーションの中で自分はどこにどのくらい寄りたいのか、経営者によって少しずつ違いがありそうです。
・少し離れて支援したい
自分が経営するのではなく、経営者を支援する立場としてビジネスに関わっていきたい場合、経営との距離を変える目的でM&Aを活用できる。投資家として関わり、自身の経験をもとに経営者にアドバイスを行うほか、支援先を集めれば横での繋がりや提携も可能になる。
自身が経営やEXITの経験を持っている場合は、単なる資金援助以上のサポートが可能な投資家として起業家を支えることができる。
事例⑦売却後、サポートの手厚いエンジェル投資家として社長を支援
- 凡人かもしれないけど、自分でリスクを背負って事業をやっている。そんな社長が好き
- 出資や毎月のメンタリングで社長を支援
- 目的は資産運用ではなく、社長を応援すること
事例⑧1→10、10→100はプロ経営者に任せ、自身は出資と新規立ち上げに専念
- IPOを目指していたがリーマンショックで時期がずれ込んだ
- 海外とのデュアルライフを始めたところナンバー2以下で経営が回るようになり、出資に専念
- 会社が大きくなったので、経営はファンドのGPと経営陣に任せる方が伸びると言われた
同じ投資家でも、小原さんは意図的に、恵島さんは結果的に投資家になっている感じがして興味深いですね。
その他:IPOを目指していくケース
新しい事業を立ち上げ、次のゴールにはIPOを掲げるという、上記の3つとはまた別のタイプの方もいました。
事例⑨1社目をKDDI傘下企業へ売却、2社目でIPOを目指す
- 既存事業でのIPOが難しいとわかり、M&Aに路線を変更
- 既存の事業を伸ばしたいメンバーを代表に立て、売却を実施
- 一度目の起業でM&Aを経験してからIPOを目指すのも悪くない
事例⑩法人設立10ヶ月で売却、今度はIPOしたい
- 経営者にとって仕事はほとんど趣味、イグジットすると一度起業の道筋が止まってしまう
- 死ぬまで起業を楽しむにはIPO後も自分で続ける方が面白いはず
- 5~10年かけて完成する大きな事業を死ぬまでに1つは仕上げたい
いかがでしたでしょうか。本当に皆さんそれぞれの選択をされていて、傍目には「他にも選択肢がある中どうやって決めたのかな」と不思議に思います。
売却する側のアドバイザリーを多く務められているブルームキャピタル社の宮崎さんによれば、実際に経営の経験がある方はおのずと自分が進みたい方向性がわかってくるとのこと。
一人ではなかなかはっきりしないという場合は、先輩経営者に相談するのもよいそうです。
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。
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